カウント・ベイシー 1930年

Count Basie 1930

ベイシーの在団していたベニー・モーテン率いるカンサス・シティ・オーケストラの1930年の録音は、10月27日から10月31日にかけて集中的に行われたようである。幾つかのディスコグラフィーを見ても、同バンドの1930年の録音はこの時期しかない。その理由として考えられるのは、レコーディングがカンサス・シティで行われたということに関係あるかもしれない。当時カンサス・シティにレコーディングができるスタジオ、機材があったかどうか?もしかするとバンドがカンサス・シティから離れられず、機材を積んだ録音部隊がニュー・ヨークからやって来て、期間限定で集中的に録音を行ったのかもしれない。
そしてこの録音から、ヴォーカルのジミー・ラッシングとトランペットのホット・リップス・ペイジが加わった。
ブルース歌手として有名なジミーであるが、この時点では時にはブルースを歌うバラード・シンガーだったという。そしてリップス・ペイジは第3トランペットとして加わった。しかしこのバンドの再構築を開始したのはアレンジを担当するエディ・ダーハムだった。ガンサー・シュラー氏によれば、ダーハムの最初の狙いは、ヘンダーソン=レッドマン=カーターの路線のスタイルを模倣するところにあったという。この路線の楽想は、Record8/B面3曲目「オー・エディ」、Record9/A面6曲目「サムボディ・スト−ル・マイ・ギャル」などの曲に一貫して登場するという。ビートは、4/4の楽想をより濃厚に伝える方向に傾いているという。

<Date&Place> … 1930年10月27日〜31日 カンサス・シティにて録音

<Personnel> … 瀬川氏とシュラーの記述を元に作ってみたベニー・モーテンズ・カンサス・シティ・オーケストラ(Bennie Moten's Kansas City Orchestra)

 
Bandleader & Pianoベニー・モーテンBennie Moten
Trumpetエド・ルイスEd Lewisホット・リップス・ペイジOran "Hot Lips Pageブッカー・ワシントンBooker Washington
Tromboneサモン・ヘイズThamon Hayes
V-Trombone 、Guitar & Arrangeエディー・ダーハムEddie Durham
Alto Sax & Clarinetハーラン・レナードHarlan Leonard
Clarinet & Tenor Saxウッディー・ウォルダーWoody Walder
Alto Sax & Baritone saxジャック・ワシントンJack Washington
Accordionバスター・モーテンBuster Moten
Pianoカウント・ベイシーCount Basie
Banjoルロイ・ベリーLeroy Berry
Tubaヴァ―ノン・ペイジVernon Page
Drumsウィリー・マックワシントンWillie McWashington
Vocalジミー・ラッシングJimmy Rushing

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ第9巻/ザ・ビッグ・バンド・エラ第1集」(RA-52)&“Bennie Moten K.C. Orch. 1929-31/Harry Dial quartet 1946”(IAJRC 7)

Record8/B面1曲目ウォント・ユー・ビー・マイ・ベイビーWon’t you be my baby ?1930年10月27日
Record8/B面2曲目アイ・ウィッシュ・アイ・クド・ビー・ブルーI wish I could be blue1930年10月28日
Record8/B面3曲目オー・エディOh ! Eddie1930年10月28日
Record8/B面4曲目ザット・トゥ・ドゥThat too , do1930年10月28日
Record8/B面5曲目マックズ・リズムMack’s rhythm1930年10月28日
Record8/B面6曲目ユー・メイド・ミー・ハッピーYou made me happy1930年10月28日
Record8/B面7曲目、A面5曲目ヒア・カムズ・マージョリーHere comes Marjorie1930年10月28日
Record8/B面8曲目ザ・カウントThe count1930年10月28日
Record8/B面9曲目ライザ・リーLiza Lee1930年10月29日
Record9/A面1曲目ゲット・ゴーインGet goin’(Get ready to love)1930年10月30日
Record9/A面2曲目、A面6曲目プロフェッサー・ホット・スタッフProfessor hot stuff1930年10月30日
Record9/A面3曲目ホエン・アイム・アローンWhen I’m alone1930年10月30日
Record9/A面4曲目ニュー・モーテン・ストンプNew Moten stomp1930年10月30日
Record9/A面5曲目アズ・ロング・アズ・アイ・ラヴ・ユーAs long as I love you1930年10月30日
Record9/A面6曲目サムボディ・スト−ル・マイ・ギャルSomebody stole my gal1930年10月31日
Record9/A面7曲目ナウ・ザット・アイ・ニード・ユーNow that I need you1930年10月31日
Record9/A面8曲目バウンシン・ラウンドBouncin’ round1930年10月31日

Record8 B-1.[ウォント・ユー・ビー・マイ・ベイビー]
ジミー・ラッシングの作。僕は、後年の彼即ちベイシー楽団での彼を聴いて彼を知ったので意外と思うが、解説の瀬川氏によるとこの頃ラッシングはもっぱらバラードを歌っていたので、彼としては珍しい力強いナンバーで、バックの不断に4ビートを送っているリズムとともに、モーテンならではの演奏という。でも僕は力強さというよりこの時代らしいポップなナンバーという感じがする。バンドとしてのアンサンブルは厚みを増したように感じる。
Record8 B-2.[アイ・ウィッシュ・アイ・クド・ビー・ブルー]
瀬川氏は、サックスとブラスの合奏ハーモニーも分厚く近代的になった。リズムも4ビートのスイングで、全体を合奏で通しても飽きさせない良いムードになっているという。僕はこの曲も悪くはないが、前曲の方が合奏のサウンドは素晴らしいと思う。
Record8 B-3.[オー・エディ]
曲名通りエディ・ダーハムのオリジナル。瀬川氏はシュラー氏とは逆に、この演奏スタイルは古いモーテン・バンドの感覚であると述べている。ベイシーのピアノ、バスター・モーテンのアコーディオンのブラスと絡み合ったプレイが聴かれる。アンサンブルも素晴らしいと思うが。ベイシーのピアノが後の「間」を生かしたものではなく、弾むように弾いているところが初期のスタイルを感じさせる。
Record8 B-4.[ザット・トゥ・ドゥ]
ジミー・ラッシングがモーテン・バンドと吹き込んだ唯一のブルース・ナンバーでダーハムのギター伴奏が素晴らしい。後のベイシー・バンドでのラッシングのブルース唱法が既に聴かれる。エド・ルイスの輝かしいTpとバンドとが応答形式で掛け合っている、とは瀬川氏の解説。全般的にエド・ルイスのTpは素晴らしい。
Record8 B-5.[マックズ・リズム]
瀬川氏は、「マックというのはおそらくドラムのウィリー・マクワシントンのことで、彼のリードするモーテン・バンドの新鮮なリズム・セクションの迫力をフューチャーした作品であろう。この頃からモダンなリズムに脱皮しつつあったモーテンの、カンサス・シティ・リズムの変貌がよく看取できる」と述べている。
しかしこの演奏を聴いてマクワシントン、リズム・セクションの技量を感じろというのは所詮無理な話だと思う。この曲は、短いが数少ないドラム・ソロが入る、つまりマクワシントンをフューチャーしたというぐらいのことではないだろうか?
Record8 B-6.[ユー・メイド・ミー・ハッピー]
瀬川氏は、ノヴェルティ的なダンス音楽で、合奏、Tb,Cl合奏、アコーディオンと演奏技術は確かに向上していると述べている。僕はいかにもこの時代の音楽だなぁと思うくらいである。
Record8 B-7.&A-5.[ヒア・カムズ・マージョリー]
サックス・セクションの合奏におけるよく揃ったハーモニーが美しく、合奏編曲技術の向上は顕著なものがあるというが、合奏技術向上はこのレコーディング集中期間の初めから感じることである。
Record8 B-8.[ザ・カウント]
アップ・テンポのブラスとサックスのリフの応答形式に迫力がある。ソロ・プレイはアコーディオンとTpだけだが、リフの面白さで聴かせているとするが、リフをこれでもかというくらいに繰り返し重ねていくことで迫力が出るのである。
Record8B-9.[ライザ・リー]
エド・ルイスのコルネット、ハーラン・レナードのアルトとソプラノサックスのソロとラッシングの楽し気なヴォーカルが聴きものである。レナードはソロイストとしてあまり高く評価されていないが、1931年までのモーテン・バンドにける数多くのプレイは、同時代の奏法としては傑出していたという。
Record9 A-1.[ゲット・ゴーイン]
全体に大変メロディアスな甘い演奏で、アンサンブル、アコーディオン、P、アコーディオンとテーマを奏し、ラッシングのヴォーカルに引き継がれる。ポップな路線のナンバー。
Record9 A-2.&A-6.[プロフェッサー・ホット・スタッフ]
アップ・テンポの合奏の次にギターの長いソロがある。ミュートTpとテナー・サックスのホットなプレイが優れている。次いでアコーディオンとPというソロの配列が変わっているというが、短いソロが入り乱れる感じである。
Record9 A-3.[ホエン・アイム・アローン]
ジミー・ラッシングのバラード歌手としてのうまさを充分に発揮した曲である。そしてこのようなバラードの伴奏をする時でも、スイング期の4ビートのリズムを既に使用して、近代的感覚を創り出しているところに、1930年代に入ってからのモーテン・バンドの進歩がうかがわれると瀬川氏は書くが、この曲を聴いてバラード・ナンバーと思う人はかなり稀有なのではないだろうか?瀬川氏はラストのブラス合奏が、いかにもフレッシュな感じに溢れているという。僕はオープンのTpソロ、後半のGtソロが素晴らしいと思う。
Record9 A-4.[ニュー・モーテン・ストンプ]
1927年の「モーテン・ストンプ」は、バンド出演の度にリクエストされるほど大ヒットしたが、この新しいヴァージョンはバンドのリズミックな新しさを充分に誇示した野心的な作品という。いずれにしろアンサンブルが見事な出来映えである。
Record9 A-5.[アズ・ロング・アズ・アイ・ラヴ・ユー]
瀬川氏は、ジミー・ラッシングの歌はクルーナー式なバラード唱法で、ミュートTp(ホット・リップス・ペイジ)のメロディアスでセンチメンタルなプレイにぴったりのムードだという。しかしこの曲が「センチメンタル」だろうか?僕の感性がおかしいのだろうか?ともかくペイジのTpソロは素晴らしい。
Record9 A-6.[サムボディ・スト−ル・マイ・ギャル]
日本ではピー・ウィー・ハント楽団の演奏が吉本新喜劇のテーマに使われつとに有名な曲。珍しいことにベイシーのスキャット・ヴォーカルが入っていることでジャズ界では有名な曲である。
ベイシーの歌のバックで応答しているのは、アルトのハーラン・レナード。ベイシーのPも非常に楽し気であり、ブラスの合奏が、後のベイシー楽団のリフの到来を既に暗示している。Bs、Tp、Tsのソロによるジャングル・ジャイヴと呼ばれたスタイルの効果も面白いとは瀬川氏。しかし「ソロによるジャングル・ジャイヴと呼ばれたスタイル」というのが分からない。それぞれのソロが並ぶのにスタイルがあるのだろうか?それよりも冒頭の部分のアンサンブルの音使いが「ジャングル・スタイル」を感じさせる音の響きだと思う。
Record9 A-7.[ナウ・ザット・アイ・ニード・ユー]
瀬川氏は、「アップ・テンポだが、ラッシングのヴォーカルは、流行りのクルーナー調。ミュートTpが合奏の上をハイ・トーンで吹き、ラストの合奏をホットに盛り上げる」と解説する。僕はこの辺りのラッシングのヴォーカルはクルーナー・スタイルとは言えないと思う。ヴォーカルの後のアコーディオン・ソロなどが面白い。
Record9 A-8.[バウンシン・ラウンド]
アンサンブル中心のナンバー。瀬川氏は、「ブラスとサックスの厚みのある合奏が印象的。ミュートTpのソロはリップス・ペイジか?」と解説する。ミュートTpの後のアルト・ソロも面白い。

1930年10月27日から31日にかけて一挙に17曲が録音された。ほぼLPレコード1枚表裏に該当するような感じだ。そう思って一気に聴くと少々飽きる。今回のセッションは全体的に明るい感じがする。そしてもちろん多少の速い遅いはあるが、テンポがほぼ同じなのである。アップ・テンポと言ってもそれほど速くなく、バラードと言ってもスローではない。要はメリハリがないのである。それぞれ曲ごとにメモを取って聴くと上記のような曲感想となるのだが、ただただ聴くと飽きてしまうのである。

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