ベニー・モーテン 1929年

Bennie Moten 1929

前回1928年の記述の繰り返しになるが、モーテン楽団は、1926年にRCAヴィクターに移籍し、多数のレコーディングを開始した。そして瀬川昌久氏によれば、そして1929年半ばまでが前期のモーテン・バンド、以降1932年の最終セッションまでが後期のニュー・モーテン・バンドと大別することができるとしている。どうもこの時代のバンドは、巡業や地元での演奏活動が忙しかったためか時期を決めて、まとめて録音を行っていたようである。もちろんそれはレコーディングの声がかかるようなバンドに限られるが。
さてモーテン楽団は、1929年7月と10月にレコーディングを行っている。瀬川氏は、1929年7月と10月の間で変化が起こり、1929年7月までが前期モーテン楽団、1929年10月から1932年までが後期モーテン楽団と言うのである。一体この間何が起こったのであろうか?早速聴いていこう。

<Date&Place> … 1929年7月16、17日 シカゴにて録音

<Personnel> … 瀬川氏とシュラーの記述を元に作ってみたベニー・モーテンズ・カンサス・シティ・オーケストラ(Bennie Moten's Kansas City Orchestra)

 
Bandleader & Pianoベニー・モーテンBennie Moten
Trumpetエド・ルイスEd Lewisポール・ウエブスターPaul Webster
Tromboneサモン・ヘイズThamon Hayes
Alto Sax & Clarinetハーラン・レナードHarlan Leonard
Clarinet & Tenor Saxウッディー・ウォルダーWoody Walder
Alto Sax & Baritone saxラフォレスト・デントLaForrest Dent
Alto Sax & Baritone saxジャック・ワシントンJack Washington
Tubaヴァ―ノン・ペイジVernon Page
Accordionバスター・モーテンBuster Moten

パーソネルについて、再三で申し訳ないが録音データがないので、瀬川氏、シュラーの解説から拾えるものを拾うこととする。バンジョーなども入っていると思うのだが、記載がないので割愛する。
東部への楽旅の後カンサス・シティに戻ったモーテン楽団に、モーテンの甥のバスター・モーテンが歌手兼アコーディオン奏者として加入した。

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ第9巻/ザ・ビッグ・バンド・エラ第1集」(RA-51)

B面6曲目レッツ・ゲット・イットLet's get it1929年7月16日シカゴにて録音
B面7曲目ライト・タイトRite tite1929年7月17日シカゴにて録音
B面8曲目ザット・サーテン・モーションThat certain motion1929年7月17日シカゴにて録音

瀬川氏の言う前期モーテン・バンドの最後の録音である。シカゴでの録音というのが意外である。瀬川氏は東部と書いているが、ガンサー・シュラー氏はシカゴで録音を行ったと書いている。ここではシュラー説を採用した。
B-6.レッツ・ゲット・イット
瀬川氏の解説は、相変わらず訳が分からないのでそのまま掲載する。「この1929年7月の吹込みには他に“Terriffic stomp”という傑作があり、ルイスのトランペットと、新加入のバスター・モーテンのアコーディオンのソロが意外にイカしている。」
疑問その1
なぜ傑作という“Terriffic stomp”を収録しないのか?それよりもここに収録した3曲の方が傑作だというならば、別に特別にこの記述は要らないのではないか?
疑問その2
何故収録していない曲を解説して、収録している曲の解説をしないのか?どうも瀬川氏ご乱心としか思えないのである。
B-7.ライト・タイト
Tpのルイスがシャープな良いソロを聴かせるが、レナードのAs、ヘイズのTb、ワシントンのBsと短いプレイの出入りが頻繁で、ややまとまりがない感じだが、この時代のジャズってこういうのが多いと思う。。
B-8.ザット・サーテン・モーション
Tpのリードするテーマに続き、ルイスのTp、ヘイズのTb、モーテンのP、ワシントンのBs、ウォルダーのClと気取らぬ好演奏。アンサンブルも見事である。

シュラー氏の解説

1929年、モーテンのバンドはシカゴまで録音のために2度旅をして、およそ20面分の録音を行った。それらの出来映えは、エリントンやその他の東部の楽団は言うに及ばず、その他の南西部のバンドでさえ完璧にモーテンを凌駕していたことを明らかにしている。
これらの録音で唯一新しい要素は、些末で、しかも音楽的には退行的なもの、すなわち、セクション層におけるロンバード楽団のサックスの響きの模倣の増大であり、バスター・モーテン(瀬川氏…ベニーの甥、シュラー氏…ベニーの兄弟)のアコーディオン・ソロの追加だった。

シュラー氏は回りくどい表現をするのが常だが、つまりこれらの演奏は当時のビッグ・バンドのレベルで最低クラスのものだといっている。B-6のアコーディオン・ソロについて瀬川氏はイカしてるとしているのに対し、シュラー氏は時代に退行と逆の評価を下している。シュラー氏の頭には、この頃の白人ダンス・バンドで使われたアコーディオンを持ち出すなど不届きだという想いがあるのだろう。2022年という耳で聴けばそれほど違和感もなく、目先を変えるという点では効果的だと思う。

モーテン楽団大変革

さてモーテン楽団の次回録音10月23日までの間に大変革が起こるのだが、一体何が起こったのであろうか。それは後世のジャズ・シーンに大きな影響を及ぼすような偉大なミュージシャンが何人か加わったのである。それはトロンボーン兼ギター奏者のエディ・ダーハムであり、トランペットのオラン・ホット・リップス・ペイジであり、ピアノのカウント・ベイシーであり、ヴォーカルのジミー・ラッシングである。ではこの辺りの経緯を瀬川氏、シュラー氏の記述からまとめてみよう。
シュラー氏のよれば、カンサス・シティを中心とする南西部で当時競い合っていたバンドと言えば、1918年ピアノ・トリオから始まり1923年には六重奏団にまで発展させてきたベニー・モーテンのバンド、ジェス・ストーン率いる「ブルース・セレネイダーズ」、ジョージ・E・リーのバンド、ポール・バンクスのバンド、アルフォンス・トレントのバンド、ウォルター・ペイジの率いる「ブルー・デヴィルズ」、トロイ・フロイドの率いるバンド達であり、彼らはオクラホマ、ミズーリ、カンサス、ネブラスカといった地域で巡業を行い、それぞれが出会えばバンド合戦を行い覇を競っていたという。
シュラー氏のよれば、それらの内モーテンの最大のライヴァルはアルフォンス・トレント楽団とブルー・デヴィルズであったという。中でもブルー・デヴィルズは強力で、ジェス・ストーンもジョージ・リーも屈服させ、それらの地区から放逐したと伝えられるという。ブルー・デヴィルズを率いるウォルター・ペイジの野心は最強を謳われるモーテンのバンドと合戦をすることであった。モーテンは長い間出来る限りこの対決を避けてきたが、ついに1928年とうとう対決が行われ、ペイジのブルー・デヴィルズがモーテンのバンドを粉砕したというのである。敗れたモーテンが次に打つ手は何か?何とブルー・デヴィルズを買収して、引き継ごうとしたというのである。しかしこれは失敗に終わる。すると今度は大がかりな引き抜きに出るのである。まず、エディ・ダーハムとカウント・ベイシーを強奪する。因みにこの時期は未だ「カウント」という愛称は付いておらず、本名のウィリアム・ベイシー(略してビル・ベイシー)であった。さらに経済的に苦しい状況を見て、ホット・リップス・ペイジ、ジミー・ラッシングも引き抜くのである。
では何故そんなことが可能だったのか?それはモーテン自身がピアニストというよりも優秀なビジネス・マンだったからであるという。彼のアドヴァンテイジは全国区のメジャー・レーベル、ヴィクターとレコーディング契約をしていることであり、この有利さの活かし方心得ていたのだという。先ほど挙げたライヴァル・バンドはジネットやオーケーといったマイナー・レーベルへの録音がいくつかある程度であった。シュラー氏によれば当時のヴィクター、コロンビアといったメジャー・レーベルは彼ら南西部のバンドには興味を示さなかったのだという。モーテンのバンドも最初はマイナー・レーベルへ吹込みを行っているが、その後ヴィクターへの売り込みを行い、見事に成功したのである。モーテンは実に優秀なビジネス・マンであった。こうしてモーテン・バンドの名声が確立されていくのである。

[Bennie Moten K.C. Orch. 1929-31/Harry Dial quartet 1946]レコード

<Date&Place> … 1929年10月23日 シカゴにて録音

<Personnel probably> … Bennie Moten's Kansas City Orchestra

Band leader & arrangerベニー・モーテンBennie Moten
Trumpetエド・ルイスEd Lewisブッカー・ワシントンBooker Washington
Tromboneタモン・ヘイズThamon Hayes
V-Tb、Gt & arrangeエディー・ダーハムEddie Durham
Saxes & Clarinetハーラン・レナードHarlan Leonardウッディ・ウォルダーWoody Walderジャック・ワシントンJack Washington
Pianoカウント・ベイシーCount Basie
Accordionバスター・モーテンBuster Moten
Banjoルロイ・ベリーLeroy Berry
Tubaヴァ―ノン・ペイジVernon Page
Drumsウィリー・マックワシントンWillie McWashington

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ第9巻/ザ・ビッグ・バンド・エラ第1集」(RA-52)&“Bennie Moten K.C. Orch. 1929-31/Harry Dial quartet 1946”(IAJRC 7)

A面1曲目ルンバ・ニグロRumba negro10月23日録音
A面2曲目ジョーンズ・ロウ・ブルースJones law blues10月23日録音
A面3曲目バンド・ボックス・シャッフルBand box shuffle10月23日録音
A面4曲目スモール・ブラックSmall black10月23日録音
A面5曲目、A面1曲目エヴリディ・ブルースEveryday Blues10月23日録音
A面6曲目、A面2曲目ブート・イットBoot it10月23日録音
A面7曲目、A面3曲目メリー・リーMary Lee10月23日録音
A面8曲目リット・ディット・レイRit-Dit-Ray10月23日録音
A面9曲目ニュー・ヴァイン・ストリート・ブルースNew vine street blues10月23日録音
A面10曲目、A面4曲目スィートハート・オブ・イエスタディSweetheart of yesterday10月23日録音
[Bennie Moten K.C. Orch. 1929-31/Harry Dial quartet 1946]レコードA面

Webで検索できるデータでは、録音は全て「10月23日」となっているが、“Bennie Moten K.C. Orch. 1929-31/Harry Dial quartet 1946”のライナー・ノートでは「A-6、A-2.ブート・イット」以降は「10月24日」となっている。10月23日に開始されたレコーディングが日付を越えても行われたのかもしれない。
瀬川氏は、強力なメンバーの入団により大変革が行われたと書いているが、シュラー氏は7月に比べて「多少改善された」程度としている。では具体的に聴いていこう。
A_1.ルンバ・ニグロ
カウント・ベイシーが参加した初吹込みで、曲はモーテンとベイシーの共作。「スパニッシュ・ストンプ」というサブ・タイトルが付いているようにエキゾティックなナンバーで、当時大いにヒットしたという。未だ独自のスタイルは確立されないと言われるが、ベイシーのピアノはモーテンに比べて数段上である。
A-2.ジョーンズ・ロウ・ブルース
ベイシーの短いソロが入るが、彼らしくない古臭いスタイルで、ジェリー・ロール・モートンに酷似しているとは瀬川氏。
A-3.バンド・ボックス・シャッフル
新加入のエディー・ダーハムがそのアレンジ力を発揮した作品。リズムも新鮮で、彼自身の素晴らしいギター・ソロも聴ける。アコーディオン・ソロも今となっては新鮮である。エンディングのセクション合奏の新鮮さが傑出している。
A-4.スモール・ブラック
アメリカのジャズ評論家マーチン・ウィリアムズ氏は「スイングというよりも元気さが溢れているという感じ」と余り高く評価していないが、瀬川氏はルイス(Tp)、バスター・モーテン(Acc)、ダーハム(Tb)、ウォルダー(Cl)、レナード(As)のソロは一級品だとしているが、Cl、Tbソロはない。瀬川さん、本当にレコード聴いたの?。
構成は、アンサンブル⇒レナード(As)⇒アンサンブル⇒ピアノ・ソロ1⇒アンサンブル⇒ピアノ・ソロ2⇒アンサンブル⇒ルイス(Tp)⇒バスター・モーテン(Acc)⇒アンサンブル⇒ダーハム(Tb)かなり短い⇒アンサンブルである。
ベイシーのアンサンブルを挟んだ2つのピアノ・ソロは2つのテイクのピアノ・ソロを編集で結合したもので、前半は新しいアール・ハインズ、後半は従来のファッツ・ウォーラーのスタイルで弾いており、当時どちらかのスタイルを取るか迷っていたと言われるベイシーの姿をとらえているという。
A-5、A-1.エヴリディ・ブルース
この頃から合奏部分が多くなり、洗練されてきたが、もう一歩厚味に欠けるとは瀬川氏。「この頃から」と書いているが、A-1〜A-10までは同一セッションなんですけど。
ダーハムのギター・ソロが単調感から救っているという。僕はアレンジが効いていて結構面白いアンサンブル展開だと思う。
A-6、A-2.ブート・イット
珍しくアップ・テンポで合奏もまとまりスッキリした演奏。ウォルダーのクラリネットに続き、バスター・モーテンのアコーディンが出る。その他ダーハム(Gt)、Ts、Tbなどソロ回しが楽しい。
A-7、A-3.メリー・リー
Bsが主旋をリードする。アコーディオンが合奏に、ソロにと活躍しているのが珍しい。Cl、Tb、Ts、Tpとソロイスト総出演の形だ。
A-8.リット・ディット・レイ
後半にウィリー・マクワシントンのヴォーカル(スキャット)が入る。Ts(”High society”の旋律を引用)、エド・ルイス、ベイシーのソロなどリズミックな迫力に満ちている。
A-9.ニュー・ヴァイン・ストリート・ブルース
1924年の初吹込みで演奏した曲の再演。この期の演奏の中では非常にダイナミックで優れている。ソロはタンギング奏法のBs、ベイシー、ダーハム(Gt)、エド・ルイス(プランジャー・ミュートTp)といずれも個性的である。
A-10、A-4.スィートハート・オブ・イエスタディ
アルトがリードする甘いサックス・アンサンブルが美しい。ダーハムのギター・ソロも良い。他にウォルダー(Cl)、ワシントン(Bs)、ヘイズ(Tb)、ルイス(Tp)と続き、そのままルイスのリードでエンディングに移る。

全体としては、7月の録音よりもかなり良いのではないかと思う。

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