ベニー・カーター 1928年

Benny Carter 1928

スイング時代のアルト三傑といえば、ベニー・カーター、ジョニー・ホッジス、ウィリー・スミスであることは衆目の一致するところであろう。ドイツが生んだ世界的なジャズ評論家ヨアヒム・ベーレント氏はこれは20年代のクラリネットの三傑、ジョニー・ドッズ、ジミー・ヌーン、シドニー・ベシエと対応しているという。つまりニュー・オリンズ近辺で起こったジャズの初期の段階では、クラリネットが非常に重要な位置づけにあり役割を果たしていたのが、スイング時代になるとその役割はアルト・サックスに移ったということであろう。
このことを考える前に、ジャズにおけるサックスという楽器について観ておこう。ベーレント氏は、まずサックス全般について、「理想的なジャズ楽器とは、トランペットのように表現力があり、クラリネットのように流動性を持つ楽器であろう。この二つの特徴を併せ持つ唯一の楽器がサキソフォンなのだ」と述べ、「サックスがジャズ楽器として重要なのはこのためだ」とし、しかし「重要になったのは1930年に入ってからだ」述べている。さらにそのためニュー・オリンズ・ジャズにおいては語る材料がないとする。確かに数人のサックス奏者はいたが、だれもスタイルを創造した者はいないという。ニュー・オリンズにおいてサックス奏者は、異様な目で見られてすらいたという。サックスは一般にジャズではなく、スイートないしポピュラー・ミュージックで用いられていたというのである。さらに氏は次のように述べる。「サックスには、ジャズの伝統がなかったので、クラリネットの伝統に従う外なかった。テナー・サックスも最初はクラリネットの一種ぐらいな気持ちで吹かれていた」というのである。
そこでこの三傑について観てみると、ベニー・カーターは1907年8月ニュー・ヨーク生まれ、ジョニー・ホッジスは1906年7月マサチューセッツ州生まれ、ウィリー・スミスは1910年11月サウスカロライナ生まれで、南部出身はウィリー・スミスだけである。クラリネット三傑が全員19世紀末のニュー・オリンズ生まれとは対照的である。三傑たちは生地、ニュー・オリンズで伝説のクラリネット奏者アルフォンス・ピクー(1878〜1961)などを聴いて憧れたのであろう。しかしアルト三傑はどうだったのだろう?
カーターは最初は母親からピアノの手ほどきを受けたが、おおむね独学で音楽を修め、15歳のときからハーレムのナイト・スポットで活動していたという。一説によると、近所に住んでいたババー・マイレイに刺激を受けトランペットを吹いたが、とてもマイレイのようには吹けないと思い、サックスに転向したという。15歳から演奏活動を開始したとすれば、1922年のことですでにフレッチャー・ヘンダーソンやデューク・エリントンなどのバンドはハーレムで演奏を行っていた。
さてそのベニー・カーターのファースト・レコーディングであるが、一般には1928年チャーリー・ジョンソンの楽団においてといわれているようだが、正確に言うと1927年2月の吹込みに参加していたとするディスコグラフィーとその時にはまだ加わっていないとする記述があり判然としないが、明確に加わっていたといえるのが1928年1月のレコーディングなのだという。

<Date & Place> … 1928年1月24日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … チャーリー・ジョンソンズ・パラダイス・テン(Charlie Johnson's Paradise Ten)

 
Band leader & Pianoチャーリー・ジョンソンCharlie Johnson
Trumpetジャボ・スミスJabbo Smithシドニー・ド・パリスSidney De Paris
Tromboneチャーリー・アーヴィスCharlie Irvis
Alto sax , Clarinet & Arrangementベニー・カーターBenny Carter
Alto sax , Clarinetベン・ウィチッドBen Whittet
Clarinet & Tenor saxベニー・ウォーターズBenny Waters
Violinエドガー・サンプソンEdger Sampson
Banjoボビー・ジョンソンBobby Johnson
Tubaサイラス・サンクレアCyrus St. Clair
Drumsジョージ・スタッフォードGeorge Stafford
Vocalモネット・ムーアMonette Moore

パーソネルはWeb版ディスコグラフィーによる

<Contents> … 「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ第9巻/ザ・ビッグ・バンド・イーラ」(RCA RA45〜53)

A-4.ユー・エイント・ザ・ワンYou ain't the one
A-5.チャールストン・イズ・ザ・ベスト・ダンスCharleston is the best dance after all
A-6.ホット・テンパード・ブルースHot-tempered blues

A-4〜6の3曲の録音データは解説、Web版ディスコグラフィーとも一致している。先にも触れたがこの吹込みには前年のレコーディングでははっきりしなかったベニー・カーターが参加していることは確実であるという。また、エドガー・サンプソンもヴァイオリンで加わっている。1年前の演奏に比べるとアンサンブルに格段のまとまりが出ているのは、ベニー・カーター効果だという。
A-4.ユー・エイント・ザ・ワン
これもムーアの歌入り。ジャボ・スミスのリードするアンサンブルの後、初めてAsソロが登場するが、これはカーターであろうという。続くTbはアーヴィス。最後にビッグ・バンドらしい見事なサックス・アンサンブルで締めている。
A-5.チャールストン・イズ・ザ・ベスト・ダンス
ガンサー・シュラー氏によるとベニー・カーターが編曲し、指揮をしたとし、サックス・アンサンブルのコーラスの見事な演奏で、この曲がこのバンドの唯一素晴らしい演奏という評価を下している。
一方解説の瀬川氏も、整然たるアンサンブル、特にカーターが得意とするところのサックス・セクションの合奏が光っていて、高音を駆使するジャボ・スミスのTpソロが輝かしいと高評価をしている。複雑なアンサンブルだがバンドは見事にスイングしている。
A-6.ホット・テンパード・ブルース
これもおそらくカーターのアレンジで、サックスとブラス、サンプソンのVlの入った合奏がユニークな響きを創り出している。Tbソロはアーヴィス、続くミュートTpソロはレナード・ディヴィスという。盛り上がるリフでエンディングに向かう。

チャーリー・ジョンソンとその楽団はこの年9月にもレコーディングを行うが、そこにはカーターは参加しておらず、その後も参加していない。結局カーターが確実に参加しているチャーリー・ジョンソン楽団の録音は1928年1月24日の吹込みだけである。

「フレッチャー・ヘンダーソン/ア・スタディ・イン・フラストレイション」CDボックス

<Date & Place> … 1928年11月 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … ヘンダーソンズ・ハッピー・シックス・オーケストラ(Henderson's happy six orchestra)

Band readerフレッチャー・ヘンダーソンFletcher Henderson
Cornetレックス・スチュワートRex Stewart
Tromboneチャーリー・グリーンCharlie Green
Clarinetバスター・ベイリ―Buster Bailey
Alto saxベニー・カーターBenny Carter
Bass saxコールマン・ホーキンスColeman Hawkins
Banjoクラレンス・ホリディClarence Holiday

<Contents> … "Fletcher Henderson /A Study in frustration" CD-2(Essential・JAZZ・Classics EJC55511)

CD2-7.オールド・ブラック・ジョー・ブルース(Old black Joe blues)

Web版ディスコグラフィーによると、この録音は「ヘンダーソンズ・ハッピー・シックス・オーケストラ」(Henderson's happy six orchestra)というバンド名での吹込みという。パーソネルもCDではTrumpetがレックス・スチュワート(CD)に対し、Web版ではボビー・スタークとなっている。
ミーハー的な興味を書くと、このナンバーと次のセッションでバンジョーを弾いているクラレンス・ホリディこそかのビリー・ホリディの父親である。無難にリズムを刻んでいるという印象であるが。チューバのジューン・コールが抜け、CDのパーソネルでは、コールマン・ホーキンスがバス・サックスを吹いていると記載されているが、シュラー氏はドン・パスクォールが吹いているとしている。ともかくホークのソロはない。

「フレッチャー・ヘンダーソン/ア・スタディ・イン・フラストレイション」2枚目CD

<Date & Place> … 1928年12月12日 ニュー・ヨークにて録音

<Personnel> … フレッチャー・ヘンダーソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Fletcher Henderson and his orchestra)

Band readerフレッチャー・ヘンダーソンFletcher Henderson
Trumpetボビー・スタークBobby Starkレックス・スチュワートRex Stewart
Tromboneジミー・ハリソンJimmy Harrison
Clarinetバスター・ベイリ―Buster Bailey
Alto sax & Arrangementベニー・カーターBenny Carter
Tenor saxコールマン・ホーキンスColeman Hawkins
Banjoクラレンス・ホリディClarence Holiday
Tubaジューン・コールJune Cole
Drumsカイザー・マーシャルKaiser Marshall

<Contents> … "Fletcher Henderson /A Study in frustration" CD-2(Essential・JAZZ・Classics EJC55511)

CD2-8.イージー・マネーEasy money
CD2-9.カムオン・ベイビーCome on baby

CD2-8.イージー・マネー
ボビー・スタークの短いが華々しいTpソロとカイザー・マーシャルの知的な創意あふれるシンバル・ワークが聴かれる佳作。実に短いがホークのソロも入る。
CD2-9.カムオン・ベイビー
カイザー・マーシャル以外聴き処はないとシュラー氏は厳しいが、僕はどちらもそれほどつまらない演奏とも思えない。大体Tbにハリソン、Tpにレックス、Clにベイリー他にホーキンス、カーターという綺羅星のような名前が並んでおり、それぞれのソロを聴くだけで十分とも思える。特にCD2-9[カムオン・ベイビー]はアレンジをベニー・カーターが担当していることが注目される。こちらはヴォーカル(スキャット)とコーラスが入るが、誰が歌っているかの記載は無い。Web版ディスコグラフィーによれば、ベニー・カーターが歌っているのだという。

シュラー氏の言うように、何故かこの時期フレッチャー・ヘンダーソンは停滞しているのである。自滅という感じさえする。このことが一層エリントンの活躍を際立たせていくような気がする。

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