ビリー・ホリデイ 1933年

Billie Holiday 1933

『ビリー・ホリデイ自伝』日本語版

ジャズ史上最も重要な歌手の一人ビリー・ホリデイのレコーディング・デビューである。
記念すべき初レコーディングについては彼女自身の言葉(『自伝』)から引用しよう。
「私の最初のレコードはベニー・グッドマンと吹き込むことになった。私は、あの日を永久に忘れることができない。ベニーは私を呼びに来て、下町のスタジオに連れて行った。そこで私は、旧式の大きなマイクロフォンを見た。半分死ぬほどの恐怖だった。こんなものに、どうして面と向かえよう。誰も私に、気持ちの静め方を教えてくれなかったが、そのセッションに来ていた有名な二人組、「バックとバブルス」のバック・ワシントンは、私を震え上がらせている原因を鎮めるためにこういった。
『あの白人たちに、君が怖がっている素振りを見せるなよ、奴らは君を笑うぜ』
次に彼は私をマイクの側に立たせ、
『何もこれを見たり、この中に歌わなくたっていいんだぜ。ただ側に、立ってさえいればいいのさ』と言った。
それは効果があった。私はマイクを無視して<男というものは(Your mother's son-in-low)>と<リフィン・ザ・スコッチ(Riffin’the scotch)>を吹き込んだ。私はこの吹込みで、35ドルもらったが、このレコードの反響はなかった。」
以上は自伝『奇妙な果実』(原題“Lady sings the blues”晶文社)からの引用であるが、この翻訳は油井正一氏と大橋巨泉氏の共訳である。この吹込みはCBSソニーから出た2枚組レコード『ビリー・ホリデイ物語 第1集』に収録されている。そこでの邦題は<リフィン・ザ・スコッチ(Riffin’the scotch)>はそのままであるが、”Your mother's son-in-low”は「ママの息子になって」である。全く異なるが、『ビリー・ホリデイ物語 第1集』のレコード解説は油井正一氏であり、邦題を担当しているのは大橋巨泉氏である。同じ英題を訳してどうしてこうも違うのか質問したいところだが、お二人とも鬼籍に入ってしまわれた。

『ビリー・ホリディ物語 第1集』ジャケット

<Date&Place> … 1933年11月27日、12月18日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Benny Goodman and his orchestra)

Band leader & Clarinetベニー・グッドマンBenny Goodman
Trumpetチャーリー・ティーガーデンCharlie Teagardenシャーリー・クレイShirley Clay
Tromboneジャック・ティーガーデン
Tenor saxアート・カールArt Karle
Pianoジョー・サリヴァンJoe Sullivan
Guitarディック・マクドノフDick McDonough
Bassアーティー・バーンスタインArtie Bernstein
Drumsジーン・クルーパGene Krupa
Vocalビリー・ホリディBillie Holiday

<Contents> … 『ビリー・ホリディ物語 第1集』(CBS SOPH 61)

record1 A-1.ママの息子になってYour mother's son-in-low11月27日
record1 A-2.リフィン・ザ・スコッチRiffin’the scotch12月18日
『ビリー・ホリディ物語 第1集』1枚目A面

A-1.[ママの息子になって]
「半分死ぬほどの恐怖だった」と述懐している初録音。正に無我夢中で歌っている様子が目に見えるようであるという。
ここでのビリーは1920年代後期におけるエセル・ウォーターズをはじめとする、いわゆるホット・シンガーの唱法の幾つかを用いているが、そう行った中にもオフ・ビートで持って巧みにリズミックな歌い方をしているところなどに、後半におけるリズムへの絶妙なノリを早くも示しており、既に彼女独自のスタイルの兆候を見せているという。
ジャック・ティーガーデンの後に出る短いトランペット・ソロ、および最後のコーダの部分のトランペットは弟のチャーリー・ティーガーデンによるもの。
ついでながらこのコーダ部分は後にグッドマン楽団におけるトランペット奏者ジギー・エルマンが得意とするヘブライ調の吹奏法のヒントになっているという。
曲目解説の大橋巨泉氏は、彼女の悲惨な人生を考えるとこの若々しさは痛いほどだと書いている。
まさにプロの解説である。付け加えることなど及びもつかない。これがあのビリー・ホリディの18歳時の初録音と知って聴くと若さに意味を感じるが知らずに聴けば単に若手の、若さに頼った力いっぱいの歌だと思う。そしてこの若手シンガーがあのビリー・ホリデーになっていくのだと思うと本当に感慨深い。
しかし何といってもBGのイントロ・ソロ、ジャック・ティーガーデンの短いソロ、再びBGの後に歌うビリー、そしてジャックのTbソロ、続くチャーリーのTpソロと考えてみれば贅沢極まりない布陣である。
A-2.[リフィン・ザ・スコッチ]
初レコーディングから3週間後のビリーのセカンド・セッションとして吹き込まれた。2曲ともディーン・キンケイドが編曲を担当しているが、キンケイドのアレンジは当時年は一流でここではスコットランド風のアレンジが効果を上げている。
なお、イントロ及びヴォーカルの前に出るトランペットはチャーリー・ティーガーデン、ヴォーカルの後のTpソロはシャーリー・クレイによる数少ないソロの一つである。続くTbソロはもちろんジャック・ティーガーデンで、巨泉氏はさすがにうまいとしている。
明氏、巨泉氏とも2曲とも選ばれたナンバーが大したものでなかっただけに全く反響はなかったとし、ビリー本人も何の反響もなかったと言っている。

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