ビリー・ホリデイ 1936年
Billie Holiday 1936
1935年テディ・ウィルソンのブランズウィック・セッションにおいて歌手としての活動を本格化させたビリー・ホリディ。この年もウィルソンのブランズウィック・セッションへの参加の他に、初めて自己名義のレコーディングも行うようになる。正に歌手としてカッコたる地位を築きつつあった年であると言えるであろう。
右の写真はテディ・ウィルソン(左)とビリー・ホリディ(右)。真ん中の人物は不明。
<Date & Place> … 1936年1月30日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ第1集」(CBS SONY SOPH 61-62)
record1 B-8.[人生は恋ありてこそ](Life begins when you're in love)
1936年最初のセッションは1月30日に行われた。ディスコグラフィーによれば、2曲が録音されたようであるが、インストものは「ザ・テディ・ウィルソン」に、ヴォーカルで参加したビリー・ホリディの歌入りは「ビリー・ホリディ物語」に収録されている。パーソネルは元々1回毎に変わることを前提としたシステムなので、ああそうですかという感じだが、新顔のクリス・グリフィンは5月からBGの録音に参加しているTp奏者なので、登場としてはこちらが早い。同じくTsのテディ・マクレーも初登場。こちらは拙HPではチック・ウェッブの録音で登場している。
record1 B-8.[人生は恋ありてこそ]
出だしのグリフィンのミュート・ソロ、それを受けて出る(ヴォーカル後も)マクレーが良い感じだ。巨泉氏はビリーもよく泣いていて(?)いいが得意なタイプの曲ではないとしている。日本ではアート・カール楽団の「スザンナ」(フォスターではない)のB面として発売され、この曲で油井正一氏はビリーを知り、一生忘れえぬ存在になったというエピソードを明かしている。
テディ・ウィルソンのブランズウィック2度目のセッションは3月に行われたが、ここでヴォーカルはビリーではなく、エラ・フィッツジェラルドが起用された。
<Date & Place> … 1936年6月30日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ第1集」(CBS SONY SOPH 61-62)
| record2 A-1. | 高嶺の花 | It's like reaching for the moon |
| record2 A-2. | 想い出のたね | These foolish things |
| record2 A-3. | 今度は貴方が泣く番よ | I cried for you |
| record2 A-4/ | 誰だか解る? | Guess who ? |
第4回目のセッションは、場所をニューヨークに戻して6月30日に行われた。全5曲の録音で、ビリー入りの4曲は「ビリー・ホリディ物語」に、インストの1曲と何故かビリーの歌入り1曲(「誰だか解る?」)の2曲が「ザ・テディ・ウィルソン」に収録されている。つまり珍しく「誰だか解る?」は双方に収録されている(ただし「ザ・テディ・ウィルソン」では「ゲス・フー」)と英語を読んだものになっているが)。
このセッションの聴き処は、ホッジス、カーネイといったエリントニアン参加と何といってもビリーのヴォーカルである。「ビリー・ホリディ物語」解説の大和明氏は、以下のように詳細に解説してくれる。
この日のビリーのヴォーカルには、初期における彼女の唱法の特色が十分に披露されている。
例えば、A-1、2における大きくヴィブラートを付けながらフレイズの語尾を引き延ばすようにして軽く下げる独特のフレイジング。
A-1、2、3のように歌い始めを原メロディーより高い音で始める。
A-3の”every road has a turning”と歌う部分のように殆ど平坦に引き延ばしたフレイズを重ねることによって平面的な感覚をもたらす唱法。
さらにA-2では最初から平坦な調子で大胆に歌い始める。
といったやり方などである。
演奏面では、どの曲もホッジス、カーネイが良い出来を示している。
[高嶺の花]
ハリー・カーネイがクラリネットを吹いた非常に珍しいもの。まずウィルソンがリリカルに歌い本領を発揮すると続くホッジスも負けじとロマンティックに歌い上げる。巨泉氏は「ややオーヴァーなヴィブラートが気になるが、持って生まれた感性の高さで限りない乙女の「憧れ」を見事に表現している」と述べている。この曲などは大和氏、巨泉氏の解説を読みながら味わうと楽しい。
[想い出のたね]
最近は原題通り「ディーズ・フーリッシュ・シングス」と称されることが多いと思う。サビを吹くカーネイのBsがさすがのプレイを聴かせる。
[今度は貴方が泣く番よ]
ビリーの十八番で、自伝によれば8コーラス歌ってサラ・ヴォ―ンをダウンさせたという。楽器ならわかるが、ヴォーカルで8コーラス歌うってどういうことだろう。よく分からない。
まず最初に吹くホッジスが素晴らしい。ビリーの歌唱の崩しがすごい。ヴォーカル後のウィルソンもリリカルだ。このレコードは当時1万5千枚も売れるという大ヒットを記録したという(普通は3〜4千枚程度)。
[誰だか解る?]
カーネイがクラリネットとバリトンを持ち替える。特にクラリネットではソロも披露する。なかなか達者なソロで、大和氏はバスター・ベイリーから、巨泉氏はバーニー・ビガードからの影響が感じられるという。軽い小唄で、ビリーも気楽に歌っているという。
<Date & Place> … 1936年6月30日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … ビリー・ホリデイ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and her orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ第1集」(CBS SONY SOPH 61-62)
| record2 A-5. | 憶えているかしら? | Did I remember ? |
| record2 A-6. | 後悔しないわ | No regrets |
| record2 A-7. | サマータイム | Summertime |
| record2 A-8. | ビリーのブルース | Billie’s blues |
この日のセッションは白黒混合で行われた。黒人はビリーとDrのコジ―・コールの二人で他の4人は白人である(Bのピーターソンは不明)。この録音の聴きものは、スイング時代最高の白人Tp奏者バニー・ベリガンが典型的な彼のスタイルの素晴らしいプレイを披露していることと、アーティー・ショウ(Cl)の参加で、後に(38年)ショウはビリーを自己のバンドの専属歌手に迎え入れている。白人バンドの専属になった黒人の苦労は彼女の自伝に詳しい。またピアノのジョー・ブシュキンもキャリア上ごく初期の録音であり貴重である。この日のビリーも周りの面子に刺激されたのかかなり大胆に崩して歌っている。
record2 A-5.[憶えているかしら?]
ヴォーカルの後のショウのCl、ブシュキンのP、ちょっと合奏が入りベリガンのTpがあり、またちょっとショウ、そしてビリーのヴォーカルで終わる。せっかくの面子なのでもっとソロが聴きたいと思うのは僕だけではないだろう。
record2 A-6.[後悔しないわ]
ショウのブレイクによるソロそしてベリガンとの絡み実に極上の演奏である。ビリー名義だとヴォーカル・スペースが大きい。コーラスに入る度に違う歌い方で入るところはさすがである。
record2 A-7.[サマータイム]
言わずと知れたガーシュイン兄弟作のミュージカル「ポーギー・アンド・ベス」挿入歌である。この演奏を大和氏は大変興味深いとししている。それはベリガンがイントロで大胆なダーティー・トーンで始めるところであり、さらにそれに啓発されたようにビリーも大胆に低唱で始めるといったところで、才能ある者同士がお互いを啓発し合い素晴らしいコラボレーションを見せて行くところであるという。
record2 A-8.[ビリーのブルース]
ビリー自作曲の初吹込みであり、吹き込んだレコードでは初のブルース・ナンバーである。ビリーは、「ブルースを歌うレディ」と呼ばれたが実は余りブルースを歌っていない。しかし彼女の歌にはブルース・フィーリングが溢れているためにそう呼ばれたのであろう。そして逆にこのような本当のブルース・ナンバーをどちらかといえばスインギーなナンバーとしてこなしているところが面白い。ブギー・ウギーのリズムに乗って大胆に歌っている。
ビリー・ホリディ名義の2回目のセッションは、9月29日に行われた。
<Date & Place> … 1936年9月29日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … ビリー・ホリデイ・アンド・ハー・オーケストラ(Billie Holiday and her orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ第1集」(CBS SONY SOPH 61-62)
| record2 B-1. | 結構なロマンス | A fine romance |
| record2 B-2. | 偽れない心 | I can't pretend |
| record2 B-3. | 数を数えて君を待つ | One , two ,button your shoe |
| record2 B-4. | 心と心で | Let’s call a heart a heart |
引き続き白黒混合で、中心はベリガンであろう。ファゾラとクライド・ハートの参加が面白い。ファゾラはどちらか言えばディキシー系と思っていたが、全く異なりクールで素晴らしいソロを聴かせてくれる。
record2 B-1.[結構なロマンス]
大和氏は、ビリーはベッシー・スミスの大きな声と感覚、ルイ・アームストロングのフィーリングを求めていたと語っていて、それが如実に表れたのがこの曲だとしている。ここではいつものように軽く歌い始めず、最初からベッシーのように堂々と歌い出す。しかもサッチモのようなフィーリングに乗り一言一言を叩き出すように歌う唱法を取っていて、さらに着実なリズムの上を実に安定した乗り方で撃てって行けることを示した。しかしビリーがベッシーやサッチモの感覚に浸ろうとするあまり、歌詞の表現の上で正しく伝達しえたかどうか疑問があるとし、それを解決し、真に偉大なシンガーとなるのはもう少しばかり先のこととなるとする。一方巨泉氏は、比較的コミカルな失恋の歌を真摯にひたむきに歌っていると高評価である。ファゾラのソロが良い。ベリガンものびのびと吹いている。
record2 B-2.[偽れない心]
ビリーの得意なナンバーという。クールなファゾラとのびのびとしながらも抑えたベリガンのソロが良いが、コジ―のチンドン屋風のコーニーなドラムが出来を台無しにしている。
record2 B-3.[数を数えて君を待つ]
コジ―とのセリフのやり取りから始まる当時の典型的なナンセンス・ソング。ファゾラとベリガンのソロが全体の出来を救っている。
record2 B-4.[心と心で]
ベリガンがミュートでソロを取るがこれは極めて珍しいという。続くハートのソロはウィルソン風で、影響を脱していないという。続くファゾラのソロはここでも素晴らしい。
<Date&Place> … 1936年10月21日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ第1集」(CBS SONY SOPH 61-62)
| record2 B-5. | もてすぎる貴方 | Easy to love |
| record2 B-6. | 君とスイング | With thee I swing |
| record2 B-7. | 今宵のあなた | The way you look tonight |
| record2 B-8. | 愛しているのは誰だと思う | Who loves you ? |
第6回目のテディ・ウィルソンのセッションは10月に行われた。4曲ほど吹き込まれたが、全てビリー・ホリディのレコードに収録されている。この日の面子はベニー・グッドマンの楽団のメンバーが半数以上を占めている。BGの楽団ではテナーを吹いているムッソが、ウエブスターがいるのでClに廻ったか?珍しいのは当時キャブ・キャロウェイの楽団に在籍していたミルト・ヒントンの参加で、1990年代まで活躍したベーシストの極めて初期のレコーディングである。
record2 B-5.[もてすぎる貴方]
コール・ポーターの作だが、巨泉氏によれば原メロディーは全く出てこないという。ランドルフは力量不足、ウエブスターはこの日は抑え気味でいい味を出している。
record2 B-6.[君とスイング]
イントロの後とエンディング前のウエブスターが聴き処。ムッソのClはまるでBGだという。
record2 B-7.[今宵のあなた]
現在もよく奏されるジェローム・カーン作のスタンダード・ナンバー。全体的に今一つ精彩がない出来とは巨泉氏。
record2 B-8.[愛しているのは誰だと思う]
巨泉氏の言うように、ランドルフの出だしのソロは全く素朴吹いているだけで、ベリガンとの力量の差が歴然である。
<Date&Place> … 1936年11月19日 ニューヨークにて録音
<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)
<Contents> … 「ビリー・ホリディ 第2集」(CBS SONY SOPH 63-64)
| record1 A-1. | 黄金の雨 | Pennies from heaven |
| record1 A-2. | これが人生なのね | That's life I guess |
| record1 A-3. | 捧ぐるは愛のみ | I can't give you anything but love |
第7回目のセッションは11月19日に行われた。録音は4曲で、3曲がビリーの歌入り、もう1曲がインスト・ナンバーである。ということでここでもビリーのヴォーカル入りナンバーは「ビリー・ホリディ物語」に、インスト・ナンバーは「ザ・テディ・ウィルソン」に収められている。なお「ビリー・ホリディ物語」はLP2枚組が1セットで、トータルでは5セットLP10枚組みとなっている。ここから2セット目LPとしては3枚目に入る。
ここでのパーソネルの陣容は7名セプテットである。8月24日以来BGが参加した録音である。8月24日のセッションの時に書いたが、BGはサイドマン扱いされることを極端に嫌いこのセッションから「ジョン・ジャクソン(John Jackson)という変名を使うようになったという。今では堂々と「ベニー・グッドマン」と出ているが、SP盤発売当時は、クラリネットは”John Jackson”だったのである。
解説の大和氏によると、このセッションでビリーは実に大胆な唱法を示しているという。
record1 A-1.[黄金の雨]
最初から最後までこの曲の通常の歌い方を全く一新した唱法を取り、不必要なまでにリズム・セクションのテンポを殺しながらレイジーにフレイズを引き延ばし、しかも歌い始めから原メロディーより一段と高い音でスタートし、そのまま原メロディーにとらわれず、しなやかな感覚で歌いきっており、まったく新しい解釈による自由なアドリブ唱法を取っているのである。特に最後の”There'll be pennies from heaven for you and me”と歌うところの思い切った崩し方などはまさにこの頃のビリーの本領を充分に発揮した圧巻の出来といえる
ビリー以外、ウィルソン、ウエブスターも快調で、歌の後に出るBGもビリーに啓発されたように珍しく憂鬱そうなソロを取る。
record1 A-2.[これが人生なのね]
前曲とこの曲でのBGは実に思いやりに満ちたプレイで、巨泉氏は「この頃の二人の仲を想わせる」と書いている。やはりみんな知ってるんじゃないの?なぜ書かない?
record1 A-3.[捧ぐるは愛のみ]
サッチモはじめいろいろな人が演っているスタンダード・ナンバーである。こういう知っている曲だとビリーがかなり崩しまくって歌っていることがよく分かる。ヴォーカルの後のウエブスターのソロが素晴らしい。
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