ビッグ・バンド全盛期の1920・30年代で、僕が最も興味を引かれたバンドは、「グレン・グレイとカサ・ロマ・オーケストラ」ともう一つはこの「ボブ・クロスビーのオーケストラ」及びピックアップ・メンバーによる「ボブ・キャッツ」であった。
何故か?他のバンドが、特に白人バンドがどちらかといえばダンサブルで、洗練された演奏を目指したと思われる1930年代後期において、何とディキシーを演奏したからである。ビリー・ホリディが参加したことでも有名なテディ・ウィルソンの一連のブランズウィック・セッションの解説で、大橋巨泉氏などはちょっと古めかしい演奏を「コーニーだ!」と切り捨てている時代である。そこに敢えて一昔のスタイル「ディキシー」を標榜していくバンドがあったということに正直驚くのである。しかもそのリーダーが、洗練されたクルーナー・スタイル・ヴォーカルの確立者と言われるかのビング・クロスビーの弟というのだから、驚きは大きい。
僕が勝手に師と仰ぐ粟村政昭氏の『ジャズ・レコード・ブック』における記述の抜粋を揚げておこう。曰く、
「スイング・ジャズの全盛時代にディキシーを演奏する大編成のバンドとして、ボブ・クロスビーと彼の一党が残した功績は長く記憶されてよいユニークなものであった。」ではこのユニークなバンドはどのようにして生まれたのであろうか?
1935年の初め8人のミュージシャンが指揮者を求めて集まったことがその発端となる。その8人とは、まだスイングの爆発以前であり、不況で経営に行き詰い解散となったベン・ポラック楽団に所属していた楽団員たちであった。その内ベースのハリー・グッドマンは兄のベニーの下に走ったので、ヤンク・ロウソン(Tp)、マッティ・マトロック(Cl)、エディ・ミラー(Ts)、チャーリー・スピヴァク(Tp)、ギル・バウアーズ(P)、ナッピー・ラメール(Gt)、レイ・ボデューク(Ds)、ギル・ロディン(Sax)の8人であった。1935年1月彼らにチャンスが訪れます。当時ビッグ・バンドのエージェンシーの最大手の一つ、ロックウェル=オキーフ・エージェンシーのトミー・ロックウェルが彼らを気に入ってくれたのだった。しかし1人前のバンドとして契約するには条件があり、誰かバンド・リーダーを立てなければならなかった。かつてポラックのバンドにいたジャック・ティーガーデンが候補に挙がったが、彼はポール・ホワイトマンの楽団と契約中でNG。エージェンシーのもう一人の経営者クラーク・オキーフは3人の候補挙げる。1人はTp奏者で歌も歌えるジョニー・ディヴィス、Tpとタップ・ダンスをやっていたハリー・ゴールドフィールド、そして当時人気絶頂のビング・クロスビーの弟でドーシー・ブラザーズの歌手だったボブ・クロスビーの3人だった。8人は考えた挙句ソロの取れる楽器奏者は揃っているし、何せビングの弟なら話題性の十分だし、ハンサムなのでバンドの前に立つと映えるということでボブ・クロスビーが選ばれる。ボブと8人は話し合い、一緒にやっていくことで話がまとまるのである。彼らはバンドを"Bob Crosby-Gil Rodin Corporation"(当時ギル・ロディンがマネージャー格だった)という会社組織にし、ニューヨーク州に登録した。そしてバンド名は「ボブ・クロスビー・アンド・ヒズ・オーケストラ」と正式に決定した活動を開始するのである。
レコーディングは1935年から開始しているが、僕の持っている彼らの最も古い録音は1936年4月のものになる。
| Band leader | … | ボブ・クロスビー | Bob Crosby | |||
| Trumpet | … | フィル・ハート | Phil Hart | 、 | ヤンク・ローソン | Yank Lawson |
| Trombone | … | ウォード・シロウェイ | Ward Silloway | 、 | アーティー・フォスター | Artie Foster |
| Clarinet & Alto Sax | … | ギル・ロディン | Gil Rodin | 、 | マッティ・マトロック | Matty Matlock |
| Alto Sax | … | ノニ・ベルナルディ | Noni Bernardi | |||
| Clarinet & Tenor Sax | … | エディ・ミラー | Eddie Miller | |||
| Tenor sax and arrangement | … | ディーン・キンケイド | Dean Kincaide | |||
| Piano | … | ギル・バウアーズ | Gil Bowers | |||
| Guitar | … | ナッピー・ラメール | Nappy Lamare | |||
| Bass | … | ボブ・ハガート | Bob Haggart | |||
| Drums | … | レイ・ボデューク | Ray Bauduc |
現状僕が持っているボブ・クロスビー楽団の1936年の吹込みはこの1曲だけである。解説に拠ればこの曲は、バンドのオリジナルで、作者はラメール、ロディン、マトロック、ハガートの4人、アレンジはハガートという。この曲を録音した4月13日にはもう1曲、ディキシーのスタンダード「マスクラット・ランブル(Muskrat ramble)」が録音され、この2曲がバンド初のディキシーランド・ジャズの吹込みとなったという。ということはこれ以前はディキシーを演奏していなかったということだろうか?
まず聴いてみて、強烈なディキシー風というわけではない。ただ何となくユニークなのである。で、どこがユニークかといえばやはりどことなく「ディキシー」の風が吹いているといった感じなのである。当時の人々はこういう演奏で踊れたのだろうか?