拙HP初登場のチック・ウェッブである。チック・ウェッブはその名声の割には現在ほとんど聴かれていないような気がする。まずその名声についてはどのように伝えられているかというと、大方次のようなものだ。ある地方回りをしているバンドが少しずつ実力をつけ、やがてニューヨークに進出する。そしてハーレムの「サヴォイ・ボールルーム」に出演する運びとなる。しかしそこには合戦狂のバンド・リーダー、チック・ウェッブに率いられた猛者たちが待ち受けており、悉く打ち負かされる、といったようなエピソードである。
そして「ほとんど聴かれていない」ことに対しては、今回取り上げるレコードの解説者、飯塚経世氏は非常に端的に、「このレコードの前に、彼のレコードというのはほとんどなかった」と言っている。つまり名声の割にレコードが出て無いのである。ではレコードが無いのになぜ名声が築かれたのか?それは本などの活字資料やミュージシャンたちの話によって「バンド合戦の猛者」という伝説が伝えられてきたからであろう。
そもそも日本の評論家たちで彼の生演奏を聴いたことのある人はほとんどいないと思う。それでも日本でもこの「伝説」が受け入れらているのは、それらのエピソードが強烈で、真に迫るものであったからであろう。
最初に書いてしまうのはどうかと思うが、「バンド合戦の猛者」という前情報を頭から追い払い、虚心坦懐にこのレコードを聴いてみて思うことは次のようなことである。
もしこの世から、ジャズに関する一切の書籍等の紙資料、Web上の資料が消えて無くなったとする。しかしこれまでのジャズ史上のすべての録音とその録音データ(日付やパーソネルなど)は完璧に残っているとする。そしてその録音とそのデータだけに基づいて、マイルス・ディヴィスもデューク・エリントンも知らない、ジャズに関する一切の先入観、事前知識のない十代の若者に、ジャズの歴史を編纂させるとする。そうした場合この「チック・ウェッブ」というドラマー兼バンド・リーダーは、ジャズ史上に輝くことができるであろうか?たぶん出来まい。その他大勢のドラマーの一人としてしか名は残らないのではあるまいか思う。
こう書くとこのレコードが詰まらないように聞こえるかもしれないが、実際は全くの反対で実に素晴らしい。ただドラムの音がほとんど聴こえないのである。評論家の粟村政昭氏も「時に消えいらんばかりのつつましさでリズム・セクション全体の中に埋没している」ように聴こえると書いている。その彼がジャズ史に残る名ドラマーでありバンド・リーダーと言われる所以を探っていこう。
| Band leader & Drums | … | チック・ウェッブ | Chick Webb | |||
| trumpet | … | ウォード・ピンケット | Ward Pinkett | 、 | エドウィン・スワイジー | Edwin Swayzee |
| Trombone | … | ジミー・ハリソン | Jimmy Harrison | |||
| Clarinet & Alto sax | … | ヒルトン・ジェファーソン | Hilton Jefferson | |||
| Tenor sax | … | エルマー・ウィリアムス | Elmer Williams | |||
| A third reed player | … | 不明 | Unknown | |||
| Piano | … | ドン・カークパトリック | Don Kirkpatrick | |||
| Banjo | … | ジョン・トルーハート | John Trueheart | |||
| Tuba | … | エルマー・ジェイムス | Elmer James | OR | ロウソン・ビュフォード | Lawson Buford |
まずバンド名が「ザ・ジャングル・バンド(The Jungle band)」である。デューク・エリントンが使う名前と同じである。実はウェッブとエリントンは縁が深い。一緒に仕事をしているし、ジョニー・ホッジス、クーティー・ウィリアムスといった重要なソリストをデュークに紹介したのもチックであった。ということはコットン・クラブやアーヴィング・ミルズとも親しかったであろうと思う。
チック・ウェッブとジャングル・バンドによる最初の録音だそうで、ウェッブ自身の作曲で快活なストンプ調の曲である。アンサンブルも見事である。各自の短いソロが入るが、エンディング近くのTpソロは、その後のスキャット・ヴォーカルともどもウォード・ピンケットによるものだそうだ。
Trombone … ジミー・ハリソン → ロバート・ホートン(Robert Horton)以外6月14日と同じ。
こちらはウェッブが曲を書いたブルース・ナンバー。ジャングル・スタイルのTpソロが見事で続くヒルトン・ジェファーソンの情熱的なクラリネット・ソロが入る。フランスのジャズ評論家ユーグ・パナシェはこのClソロを絶賛しているという。ラスト近くのTpソロはエドウィン・スワイジーによるものという。こちらはソロ・スペースも大きく聴き応えのある作品である。