この年チック・ウエッブのレコーディングで重要なのは、何といってもジャズ史上最高の女性歌手の一人、エラ・フィッツジェラルドが活動を本格化させたことであろう。1934年11月21日アポロ・シアターのアマチュア・ナイツで優勝し、ウエッブのバンドに雇われる。ディスコグラフィーによると、1935年に4面分の録音を行うが、僕の持っているチックのレコードには収録されていない。そしてこの年1936年には約20面分のチックのバンドで歌う彼女の歌が録音されるのである。
彼女の入団が原因となったかどうかは分からないが、この年チックのレコードは、は格段に多くなる。というか僕の持っているレコードが増えただけなのだが、僕などにも入手できるように増えたのでやはり全般的に増えたのだろう。ともかく僕の持っているチックのレコードを順番に聴いていこう。
さて、僕の持っているウエッブの1936年の録音は2月からのものになるのだが、これが興味深い。Jazz Archivesから出ている"Chick Webb/Bronzeville stomp"(以下Bronzeと略)というLPには、全17曲収録されているのだが、この内12曲が2月の録音であるが、日付は不明となっている。これに対してJazz anthologyから出ている"Chick Webb and his Orchestra/featuring Ella Fitzgerald 1936"(以下"1936"と略)にも12曲が収録され、収録日が記載されている。どちらにも12曲ずつ収められているが、どちらも同じ曲なのである。しかし演奏内容は異なるのである。
全般的に"1936"はラジオ放送のエア・チェックのような気がするが、"Bronze"はスタジオ録音ぽい。しかしディスコグラフィーでは2月にレコーディングは行っていないので、双方共ラジオ放送が音源なのだろう。"そして面白いのは、時期が近いこともあってかアレンジはほぼ同じなのである。その他録音データを比べると、
パーソネルはベースを除いて同じである。"Bronze"では、ベースを<ビル・トーマス>としているのに対して、"1936"では記載がない。
曲名…"Bronze"では「ユー・ヒット・ザ・ストップ」(You hit the stop)、"1936"では「ユー・ヒット・ザ・スポット」(You hit the spot)だが双方同じ曲である。
曲名…"Bronze"では「イフ・ドリームス・カム・トゥルー」(If dreams come true)、"1936"では「ホエン・ドリームス・カム・トゥルー」(When dreams come true)だが双方同じ曲である。
といった相違がある。
ということなので、双方まとめて記載していこう。
| Band leader & Drums | … | チック・ウェッブ | Chick Webb | ||||||
| trumpet | … | マリオ・バウザ | Mario Bauza | 、 | ボビー・スターク | Bobby Stark | 、 | タフト・ジョーダン | Taft Jordan |
| Trombone | … | サンディ・ウィリアムス | Sandy Williams | 、 | クロード・ジョーンズ | Claude Jones | |||
| Clarinet & Alto sax | … | ピート・クラーク | Pete Clark | ||||||
| Alto sax | … | エドガー・サンプソン | Edger Sampson | ||||||
| Tenor sax | … | テディ・マクレー | Teddy McRae | 、 | ウェイマン・カーヴァ― | Wayman Carver | |||
| Piano | … | ジョー・スティール | Joe Steele | ||||||
| Guitar | … | ジョン・トルーハート | John Trueheart | ||||||
| Bass | … | ビル・トーマス | Bill Thomas | ||||||
| Vocal | … | エラ・フィッツジェラルド | Ella Fitzgerald |
A面 | B面 | |||||
| 3. | ビッグ・ジョン・スペシャル | Big John special | 1. | ダークタウン・ストラッターズボール | Darktown strutters ball | |
| 4. | ユー・ヒット・ザ・ストップ | You hit the stop | 2. | キーピン・アウト・オブ・ミスチーフ・ナウ | Keepin' out of mischief now | |
| 5. | サヴォイでストンプ | Stompin' at the Savoy | 3. | ニット・ウィット・セレナーデ | Nit wit serenade | |
| 6. | その手はないよ | Don't be that way | 4. | キング・ポーター・ストンプ | King porter stomp | |
| 7. | シャイン | Shine | 5. | イフ・ドリームス・カム・トゥルー | If dreams come true | |
| 8. | ゴー・ハーレム | Go harlem | 6. | リズム・アンド・ロマンス | Rhythm and romance |
A面 | B面 | ||||||
| 1. | サヴォイでストンプ | Stompin’ at the Savoy | 2月8,9日 | 1. | ビッグ・ジョンズ・スペシャル | Big John’s special | 2月8,9日 |
| 2. | その手はないよ | Don't be that way | 2月8,9日 | 2. | ユー・ヒット・ザ・スポット | You hit the spot | 2月19,20日 |
| 3. | ニット・ウィット・セレナーデ | Nit Wit Serenade | 2月8,9日 | 3. | リズム・アンド・ロマンス | Rhythm and romance | 2月19,20日 |
| 4. | キング・ポーター・ストンプ | King porter stomp | 2月8,9日 | 4. | キーピン・アウト・オブ・ミスチーフ・ナウ | Keepin’ out of mischief now | 2月8,9日 |
| 5. | シャイン | Shine | 2月19,20日 | 5. | ゴー・ハーレム | Go harlem | 2月8,9日 |
| 6. | ダークタウン・ストラッターズボール | Dark town strutter’sball | 2月19,20日 | 6. | ホエン・ドリームス・カム・トゥルー | When dreams come true | 2月19,20日 |
[ビッグ・ジョンズ・スペシャル]
[ダークタウン・ストラッターズボール]
前録音2月からの変更点
Trombone … クロード・ジョーンズ ⇒ ナット・ストーリー Nat Story
Alto sax … エドガー・サンプソン ⇒ ルイ・ジョーダン Louis Jordan
Piano … ジョー・スティール ⇒ トミー・フルフォード Tommy Fullford
Bass … 記載なし ⇒ ビヴァリー・ピア Beverly Peer
次の録音は6月2日、この日の音源はいくつかのレコードに分かれて収録されているので、それを以下のようにまとめてみた。少々分かりにくいかもしれないがご容赦を!
| Band leader & Drums | … | チック・ウェッブ | Chick Webb | ||||||
| trumpet | … | マリオ・バウザ | Mario Bauza | 、 | ボビー・スターク | Bobby Stark | 、 | タフト・ジョーダン | Taft Jordan |
| Trombone | … | サンディ・ウィリアムス | Sandy Williams | 、 | ナット・ストーリー | Nat Story | |||
| Clarinet & Alto sax | … | ピート・クラーク | Pete Clark | ||||||
| Alto sax | … | エドガー・サンプソン | Edger Sampson | ||||||
| Tenor sax | … | テディ・マクレー | Teddy McRae | 、 | ウェイマン・カーヴァ― | Wayman Carver | |||
| Piano | … | ジョー・スティール | Joe Steele | ||||||
| Guitar | … | ジョン・トルーハート> | John Trueheart | ||||||
| Bass | … | デル・トーマス | Dell Thomas | ||||||
| Vocal | … | エラ・フィッツジェラルド | Ella Fitzgerald |
パーソネルは、僕の持つ4曲の音源を収録した2種のレコード(「伝説」と"Princess of the savoy")は同じだが、もう1種類のレコードとディスコグラフィーではそれぞれ若干異なる。上記は「伝説」と"Princess of the savoy"に記載されているパーソネルである。もちろん同日の録音でメンバーが変わったこともあり得るが、このチック・ウェッブの場合あまり考えられない。ともかく相違点を上げると
| 曲名 | 原題 | レコード | 個所 | レコード | 個所 |
| シング・ミー・ア・スイング・ソング | Sing me a swing song | "Cab‐Ella & Chick" | B面2. | "Princess of the savoy" | A面1. |
| ラヴ・ユーアー・ジャスト・ア・ラフ | Love , you’re just a laugh | "Princess of the savoy" | A面2. | ||
| ゴー・ハーレム | Go harlem | 「チック・ウェッブ/伝説」 | B面6. | ||
| ア・リトル・ビット・レイター・オン | A little bit later on | 「チック・ウェッブ/伝説」 | B面7. |
2月の再録「ゴー・ハーレム」を除き全てエラのヴォーカル入りである。すなわち「ゴー・ハーレム」はエラのディスコグラフィーには載っていない。繰り返しだが、まだ18歳のエラの歌唱が、声も若く表現もストレートで、しかもメチャうまい。
[シング・ミー・ア・スイング・ソング]
短いアンサンブルの後エラのヴォーカルとなる。間奏もアンサンブルで完全にエラのナンバーである。
[ラヴ・ユーアー・ジャスト・ア・ラフ]
こちらもアンサンブルの後、エラのヴォーカルなる。短いTsのフィル、ソロはあるもののエラのナンバーである。
[ゴー・ハーレム]
この曲は2月の録音でもインストのみでヴォーカルは入っていなかった。ミディアム・アップのスインギーなナンバーで、マクレーのTs、クラークのCl、ウィリアムスのTbの短いがソロが散りばめられている。
[ア・リトル・ビット・レイター・オン]
こちらはエラのヴォーカル入り。エラのヴォーカルは軽快でスムーズだ。間奏にはジョーダンのTp、ウィリアムスのTbソロが聴ける。エラのヴォーカルナンバーだが、ソロイストも充実しているので、彼らのソロも聴きたいところだ。
さて、次の僕の持っている録音は、10月29日でこれも2枚のレコードに3曲が収められている。
| Band leader & Drums | … | チック・ウェッブ | Chick Webb | ||||||
| trumpet | … | マリオ・バウザ | Mario Bauza | 、 | ボビー・スターク | Bobby Stark | 、 | タフト・ジョーダン | Taft Jordan |
| Trombone | … | サンディ・ウィリアムス | Sandy Williams | 、 | ナット・ストーリー | Nat Story | |||
| Clarinet & Alto sax | … | ピート・クラーク | Pete Clark | ||||||
| Alto sax | … | ルイ・ジョーダン | Louis Jordan | ||||||
| Tenor sax | … | テディ・マクレー | Teddy McRae | 、 | ウェイマン・カーヴァ― | Wayman Carver | |||
| Piano | … | トミー・フルフォード | Tommy Fullford | ||||||
| Guitar | … | ジョン・トルーハート | John Trueheart | ||||||
| Bass | … | ビヴァリー・ピア | Biverly Peer | ||||||
| Vocal | … | エラ・フィッツジェラルド | Ella Fitzgerald |
パーソネル表記は、2枚とも同じだが、ディスコグラフィーの記載は若干異なる。異なる点は2つ。
Tromboneは、ナット・ストーリーではなくクロウド・ジョーンズ
Tenor saxにテディ・マクレーは加わっておらず、ウェイマン・カーヴァー一人である。
| 曲名 | 原題 | レコード | 個所 |
| ユール・ハヴ・トゥ・スイング・イット | You'll have to swing it | "Cab‐Ella & Chick" | B面7. |
| アイ・ガット・ザ・スプリング・フィーヴァー・ブルース | I got the spring fever blues | "Princess of the savoy" | A面3. |
| ヴォ―ト・フォー・ミスター・リズム | Vote for Mr. rhythm | "Princess of the savoy" | A面4. |
そして次の録音は、11月18日。僕の持っている1936年最後の録音である。
| Vocal | … | エラ・フィッツジェラルド | Ella fitzgerald |
| trumpet | … | タフト・ジョーダン | Taft Jordan> |
| Trombone | … | サンディ・ウィリアムス | Sandy tdWilliams |
| Clarinet & Alto sax | … | ピート・クラーク | Pete Clark |
| Tenor sax | … | テディ・マクレー | Teddy McRae |
| Piano | … | トミー・フルフォード | Tommy Fullford |
| Guitar | … | ジョン・トルーハート | John Trueheart |
| Bass | … | ビヴァリー・ピア | Biverly Peer |
| Drums | … | チック・ウェッブ | Chick Webb |
パーソネルは、レコード、ディスコグラフィーとも同じ。
| A面1. | オルガン・グラインダー・スイング | Organ grinder's swing |
| A面2. | シャイン | Shine |
| A面3. | マイ・ラスト・アフェアー | My last affair |
この録音のバンド名が「エラ・フィッツジェラルド・アンド・ハー・サヴォイ・エイト」となっている。完全にエラの唄を中心に据えたコンボ・バックである。
A-1.[オルガン・グラインダー・スイング]
ジミー・ランスフォードでおなじみのナンバー。少し前10月7日にBGも録音しているが、そちらはヴォーカル無しである。そしてここでは軽快な、後は看板となるスキャットを披露している。間奏でTbソロ、ヴォーカルにはCl、Tpのオブリガードが付くのが珍しい。
A-2.[シャイン]
古いナンバーで、ウエッブはオーケストラで2月に録音している。ヴォーカル前に短いP、Clソロが聴ける。ここでもミュートTpがオブリガードを付け、間奏ではマクレーのTsが聴ける。そういえばこれまでエラのヴォーカルにオブリガードはほとんどついていなかった。それがジャズらしさを感じさせなかった要因であろう。
A-3.[マイ・ラスト・アフェアー]
少しゆったりとしたナンバー。ここでは間奏にジョーダンのオープンTpソロが聴ける。