コールマン・ホーキンスは「ホーク」とか「ビーン」といった愛称で親しまれている。僕としてはすぐ名前が連想できる「ホーク」と呼んでいこうと思う。そのホークの吹込みを時系列で観ていこうということだが、その前にジャズにおけるサックスという楽器について観ておきたい。
ドイツが生んだ世界的なジャズ評論家ヨアヒム・ベーレント氏は、まずサックス全般について、「理想的なジャズ楽器とは、トランペットのように表現力があり、クラリネットのように流動性を持つ楽器であろう。この二つの特徴を併せ持つ唯一の楽器がサキソフォンなのだ」と述べ、「サックスがジャズ楽器として重要なのはこのためだ」とし、しかし「重要になったのは1930年に入ってからだ」述べている。さらにそのためニュー・オリンズ・ジャズにおいては語る材料がないとする。確かに数人のサックス奏者はいたが、だれもスタイルを創造した者はいないという。ニュー・オリンズにおいてサックス奏者は、異様な目で見られてすらいたという。サックスは一般にジャズではなく、スイートないしポピュラー・ミュージックで用いられていたという。
さらに氏は次のように述べる。「サックスには、ジャズの伝統がなかったので、クラリネットの伝統に従う外なかった。テナー・サックスも最初はクラリネットの一種ぐらいな気持ちで吹かれていた」というのである。そのテナー・サックスはモダン期に至るまで発展の一途をたどるのだが、その最初の一人がコールマン・ホーキンスであった。1930年代の終わりまでテナー奏者はすべてホーキンスの生徒だったのだ」と。
さてそのホークは1904年ミズーリ州で生まれ、最初はピアノを後はチェロを弾き、9歳でテナー・サックスに転向したという。なぜジャズでは異様な目で見られていたこの楽器を手にしたのかは分からないが、そもそもはスイートやポップス・ミュージックを志向していたのかもしれない。
そして「クレイジー・ブルース」の大ヒットで知られるメイミー・スミスのバンドに雇われ、1922年(1923年という記述もある)18歳でニュー・ヨークに上り、1923年にフレッチャー・ヘンダーソンの楽団に加入した。ヘンダーソン楽団は最も早期から録音を開始した黒人ジャズ・バンドの一つで、すでに1921年からレコーディングを開始している。ディスコグラフィー上でホークの名が最初に確認できるのは、「ヘンダーソンズ・ホット・シックス」による1923年1月11日の録音。因みににこのHot sixのメンバーは、ヘンダーソン(P)、エルマー・チェンバースとジョー・スミスがコルネット、テディ・ニクソン(Tb)、ドン・レッドマン(Cl)、ホーク(Ts)、チャーリー・ディクソン(Bj)、ビリー・パウラー(Bsx)とヘンダーソン以外になぜか7人いるという編成。
そしてその後はヘンダーソン名義やヘンダーソンのバンドがバックを務めた歌手の伴奏に加わっている。こうして始まるホークのレコーディングの中で僕が持っている最も古い吹込みがこの1923年8月9日のものとなる。
「フレッチャー・ヘンダーソン/ア・スタデイ・イン・フラストレイション」については、フレッチャー・ヘンダーソンの項で触れた。
| Bandleader & Piano | … | フレッチャー・ヘンダーソン | Fletcher Henderson |
| Cornet | … | エルマー・チェンバース | Elmer Chambers |
| Trombone | … | テディ・ニクソン | Teddy Nixon |
| Clarinet & Alto sax | … | ドン・レッドマン | Don Redman |
| Clarinet , Tenor , Alto & Bass sax | … | コールマン・ホーキンス | Coleman Hawkins |
| Banjo | … | チャーリー・ディクソン | Charlie Dixon |
この録音については、ガンサー・シュラー氏はルイ・アームストロング加入前のヘンダーソン楽団の演奏の例としてその著「初期のジャズ」で取り上げている。
フレッチャーの作でドン・レッドマンによる編曲。ドン・レッドマンは幼時から神童として誉れが高く当初からバンドの音楽監督的位置についていた。ヘンダーソンのバンドのレパートリーの大半は、当時のヒット曲や出来合いの編曲で構成されていたが、レッドマンは少しずつ、出来合いの編曲を作り直したり、フレッチャーの作った曲を編曲し直したりし始めていた。この曲はそういったレッドマンの新しい試みが出始めている曲だとして詳しい分析を行っている。
即興のアンサンブル、和声的な伴奏つきの(あるいはなしの)ソロ、そして単純なソロ風の楽句が和声を付けられてさらに単純なリフの音型と対置される両者の結合形でもって構成される。これらの組み合わせ全ての中で、リードとブラスのセクションは対照的な演奏を行う。
リードはやや静的であまり変化しない和声を、ブラスは動きが派手なアンサンブルの楽句を奏する。オーケストレイションが実に多彩で、コールマン・ホーキンスのサキソフォンに多様な役割が与えられる。彼は内声部の和声パート、即興の対旋律、ソロを受け持ち時にはバス・サックスまで掛け持ちして、ブギウギ風なベース・ラインを奏することさえある。これはホークが多様な役割を担ったというよりもホークは今でいえばパーカショニストがボンゴやコンガ、ベル、カウベルといった多様な効果音を発するように使われたのではないかという気もする。サックスは特に必要な楽器ではないので、本筋とは関係ないところでコルネットやクラリネットを盛り上げる役を担わされたとではないかという気もしてくる。
また当時は大変高級なものとされていた高い音程のチャイム音の短い挿入があるが、これは当時洗練された白人バンドによって広く使われた手法であったという。タイトルの<dicty>とは「高級な」とか「紳士気取りの」というような意味なので、その辺りの雰囲気を出すために使ったのだろう。
リズム上の節回しの点では、音をきっちりビートに乗せるので、どうしても断続的になり、ホーキンスの攻撃的なスラップ・タンギング奏法と結びつくと今日では理解しにくい響きを起こしている。8分音符はほとんど符点8分音符―16分音符のように演奏され、レガート奏法はほとんど行われない。こうしたリズム上の様式要素は、初期のバンドの地域的特徴を記述するうえで大変重要であるとしている。
かなり詳細だが、よく分から点もある。ともかく後に「スムースなトーンを駆使して、リリカルでありながら力強い堂々たる」スタイルを創造する以前のごく初期のコールマン・ホーキンスのプレイ、特に当時は主流だったというスラップ・タンギング奏法が聴けるという点でも大変重要な録音である。
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