アメリカ以外で最も早くにジャズに取り組み、身に付いた独自の音楽とジャズを融合させた音楽を演奏したギタリストである。彼の生み出した独特な音楽は「ジプシー・スイング」と呼ばれ、今も色あせぬ魅力を放っている。我が国においても「ジャンゴ・ラインハルト研究会」が組織されるなど熱狂的なファンが多い。僕は日本で誰かジャズ・マンの研究会というのを他には余り聞いたことがない。それだけはまり込んでいく魅力というより魔力を持っているのであろう。
またもう一つ重要なのは、この当時これほど「ギター」という楽器を前面に押し出し、単音でソロを弾きまくるというギタリストはアメリカでは、エディ・ラングくらいしかいなかった。そういった意味ではジャズ・ギターの開拓者の一人ということもできるであろう。
さてこのCDはプレスティッジ・レコードともファンタジーとも書いてあるよく分からない代物だが、何年か前に「ジャンゴのファースト・レコーディング」と書いてあるので、買ってみたものである。
ジャンゴ自身によれば1926年ある歌手の伴奏を行ったのが最初のレコーディングとのことであるが、このレコーディングはまだ発見されていないという。またジャンゴがジャズに傾倒するようになったのは、1926年にビリー・アーノルドのバンドの演奏を聴いてだとも言われる。ビリー・アーノルド(Billy Arnold :1894〜1962)はアメリカ・ニュージャージー州出身のピアニスト兼バンド・リーダーですが、イギリスにわたって1920年にロンドンでバンドを結成し、パリなどでも公演を行った人物。そのパリでの公演を聴いたのであろう。
また非常に有名な話として彼のハンディキャップのことがある。1928年10月(11月説あり)のある日の未明、彼のキャラヴァンが火事を出し、火を消そうとして半身に大やけどを負ってしまう。その結果右足は麻痺し、左手の薬指と小指には障害が残り使えなくなるというギター奏者としては致命的な痛手を受けてしまう。彼を見た医師は、再びギターを弾くことは無理と思ったというが、彼は練習により独自の奏法を開拓し、ハンディキャップを克服するのである。
ただこの件に関して、「日本ジャンゴ・ラインハルト研究会」代表の伊東伸威氏が非常に興味深いエピソードを紹介している(2010年11月9日付「日本経済新聞」文化欄)。それはジャンゴは人差し指と中指しか使えなかったが、逆にこの2本だけの方が軽々と縦横無尽に弦の上を移動するというのである。もちろん相当の練習は必要であろうが、「火傷のハンディというより一つの奏法として確立しているように思える」というのである。
レコーディングについては、1928年から参加しているようであるがそれがどのような音楽なのかは分からない。ジャズ評論家の岩波洋三氏は、「1934年ジャンゴと同郷のベルギー出身のジャズ評論の先駆者であるユーグ・パナシェ氏が彼のギターに惚れこみ、フランスのジャズ愛好家集団「ホット・クラブ・ド・フランス」の協力を得、ジャンゴに新グループの結成を勧めた。そこで集められたメンバーは、後に盟友となるヴァイオリニストのステファン・グラッペリ、ギタリストのジョセフ・ラインハルト、同じくギターのロジェ・シャピュ、ベーシストのルイ・ヴェラで、弦楽器ばかりというユニークなバンドであった。それがフランス・ホット・クラブ五重奏団(仏:Le Quintette du hot club de France)である。
| Band leader & Solo Guitar | … | ジャンゴ・ラインハルト | Django Reinhardt | |||
| Violin | … | ステファン・グラッペリ | Stephane Grappelli | |||
| Guitar | … | ジョセフ・ラインハルト | Joseph Reinhardt | 、 | ロジェ・シャピュ | Roger Chaput |
| Bass | … | ルイ・ヴォラ | Louis Vola |
| CD1 | タイガー・ラグ | Tiger rag |
| CD2 | ダイナ | Dinah |
| CD3 | オー、レディ・ビー・グッド | Oh lady , be good |
CDの解説によれば「フランス・ホット・クラブ5重奏団」の初めての録音であるという。取り上げられた曲はジャズの母国アメリカのスタンダード・ナンバーである。
CD-1.[タイガー・ラグ]
ご存知ディキシーランド・ジャズの定番スタンダード。O.D.J.B.(オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド)作ということになっているが、ガンサー・シュラー氏によればトラディショナルの”No.2 rag”であるという。ともかくO.D.J.B.のレコードが大ヒットしたので、ジャンゴもそれを聴いて練習したのかもしれない。
速いテンポで演奏される。何といってもラインハルトのGtとグラッペリのVlの組み合わせが新鮮である。
CD-2.[ダイナ]
これもスイング期以前からのスタンダード。日本ではディック・ミネのレコードがヒットした。ここではラインハルトのテクニックが存分に発揮される。なかでもコード・ワークによるソロには驚かされる。ものすごいテクニックである。
CD-3.[オー、レディ・ビー・グッド]
これもガーシュイン作のスタンダード。ベイシー楽団などの演奏が有名。2本指でコード・プレイやブリンギング・オフといってテクニックはどうやって行うのだろう。
岩浪洋三氏によれば、1980年代ジャンゴの死後20年以上経つが、フランスではレコードは再発され続け、それなりの売れ行きを記録していたという。ジャンゴのギターとグラッペリのヴァイオリンの響きがノスタルジーを感じさせるのではないかと分析している。確かに古き良き音の響きであると思う。