1930年は、世界大恐慌の影響が深刻化しジャズのレコーディングは激減すると言われるが、エリントンの録音を見る限り全くその兆候は見られない。驚くほどの録音数である。
またメンバー移動の少ないエリントン楽団なので最初に基本形を示し、移動があれば記載していこう。但しバンド名は都度まちまちである。
柴田浩一氏『デューク・エリントン』には、この年ニュー・ヨークのフルトン劇場でモーリス・シュバリエと共演したとあるが、右は『自伝』に掲載されたこの年ニュー・ヨークのフルトン劇場に出演した時のエリントン楽団。シェバリエの姿は写っていないようである。
そしてシュバリエとの共演の後ハリウッドに向かい、2度目の映画、『チェック・アンド・ダブル・チェック(Check and double check)』(77分)への出演を果たす。しかし第1作1929年の”Black and tan”では、エリントンは主役を張っていましたが、ここでは白人上流階級のパーティーで演奏する約2分間の出演である。しかしこの映画では楽曲を提供し、演奏するという音楽担当的な意味合いが強かったようだ。
| Band leader & Piano | … | デューク・エリントン | Duke Ellington | |||||||
| trumpet | … | アーサー・ウェッツェル | Arthur Whetsel | 、 | クーティ・ウィリアムス | Cootie Williams | 、 | フレディ・ジェンキンス | Freddie Jenkins | |
| Trombone | … | ジョー・”トリッキー・サム”・ナントン | Joe “Tricky Sam” Nanton | 、 | ファン・ティゾール | Juan Tizol | ||||
| Clarinet , Soprano , Alto & sax | … | ジョニー・ホッジス | Johnny Hodges | |||||||
| Clarinet , Alto & Baritone sax | … | ハリー・カーネイ | Harry Carney | |||||||
| Clarinet & Tenor sax | … | バーニー・ビガード | Barney Bigard | |||||||
| Banjo | … | フレッド・ガイ | Fred Guy | |||||||
| String Bass | … | ウェルマン・ブラウド | Wellman Braud | |||||||
| Drums | … | ソニー・グリア | Sonny Greer |
基本形+Vocal … アーヴィング・ミルズ Irving Mills
因みにこれは1929年12月10日と同じメンバー。
| CD7-18. | セント・ジェイムス病院 | St.James infirmary |
| CD7-19. | 君微笑めば | When you’re smilling |
| CD7-20. | レント・パーティー・ブルース | Rent party blues |
| CD8-1. | ジャングル・ブルース | Jungle blues |
Historyでは、CD7-19〜CD8-1までは1930年1月20日の録音と記載しているのに対して、Ellingtoniaでは1930年1月29日の録音と記載している。全く同一曲を演奏した別セッションがあるとは思えないので、どちらかの誤りと思われるが、いつものように僕には決め手がないので、双方を記載する。
またいろいろなバンド名を使うエリントン・バンドだが、この「ザ・テン・ブラック・ベリーズ」という名称は初めて登場する。アーヴィング・ミルズのバンドという意味合いであろう。
「セント・ジェイムス病院」
以前このHP にも登場した。最も有名なのは、1928年録音のルイ・アームストロングのものであろう。この原曲作者は不明であるが、作詞作曲としてジョー・プリムローズ(Joe Primrose)が登録を行っているという。このジョー・プリムローズはアーヴィング・ミルズの変名である。ブライアン・プリーストリーの『ジャズ・レコード全歴史』によれば、目端の利く白人の音楽関連者は、作者がはっきりしない伝統的な曲を片っ端から自分の名前で登録していったという。即ちこの曲が録音されればされるほど、売れれば売れるほど作者となったミルズに印税が入ったことになる。さてご当人の歌唱は、
[君微笑めば]
この曲もルイのレコードがあり僕も好きなナンバーだ。前曲と共にサッチモのヒット曲を取り上げているが、正直言ってこの時期のサッチモに勝る仕上がりを期待することは酷であろう。
[レント・パーティー・ブルース]
どこかで聞いたことのあるような気がするが思い出せない。とても明るい雰囲気を持った曲である。ミルズのヴォーカルは入っていない。
[ジャングル・ブルース]
いかにもジャングルを連想させるようなサウンドで始まり、一部咆哮のようなミュートTpも聴かれるが、全体としてはテーマのメロディも含めゆったりとした感じの演奏である。各ソロ・スペースも大きく取ってあり聴き応えがある。
1929年12月10日、前回と同じメンバー。
| CD8-2. | アドミレイション | Admiration |
| CD8-3. | マオリ | Maori (A samoan dance |
| CD8-4. | 君微笑めば | When you’re smilling |
CD7-19〜CD8-1までの4曲について9日間の録音日の違いだったが、ここでは約1か月間異なる。全く同一メンバーで同一曲を演奏した別セッションがあり、双方とも見逃したとは思えなので、同一セッションなのであろう。どちらが誤ったのか或いは双方誤りなのかこれも僕には決め手がないので、双方を記載する。
前回録音とはサウンドがだいぶ異なる。ベ−スもビンビン響いてくる。
[アドミレイション]と[マオリ]
ちょっと変わった曲調である。ちょっとだけエキゾチックな感じというかラテンのような感じもする。
[君微笑めば]
約1か月前にも吹き込んでいるが、同じメンバーなのに全く異なる出来映えである。こちらの方がグッと明るい。ミルズのヴォーカルも大分こなれた感じがする。冒頭のTpのリードはホエッツェルではないかと思う。中間部のTpはクーティーと思うがどうであろう。各自のソロもいいしエリントン・バンドのこの曲のベスト・トラックだと思う。
1929年12月10日以降同じメンバー。
| CD8-5. | シング、ユー・ジナーズ | Sing , you sinners |
| CD8-6. | セント・ジェイムス病院 | St.James infirmary |
Ellingtoniaでは3月いつかとしているのに対して、Historyは3月30日と特定している。
[セント・ジェイムス病院]
前回1月の採録。こちらもCD8-4.同様大分こなれた感じがする。バックのTpによるオブリガードも素晴らしい。ソロも先ずTbが低音部で取り、As、Tpと続くが感傷に流されることなく、淡々としかしそれが却って劇的な感じを創り出している。これも同楽団同曲のベスト・トラックであろう。
Ellingtoniaでは、この後3月20日に3曲ほどBrunswickに吹込みが行われたことになっているが、それはHistoryには収録されていない。
1929年12月10日以降同じメンバー。
| CD8-7. | ザ・ムーチ | The mooche |
| CD8-8. | ラガマフィン・ロメオ | Ragamuffin Romeo |
| CD8-9. | イースト・セント・ルイス・トゥードル・オー | East St. Louis toodle-O |
1930年度の録音で初めてEllingtonia、History記載の録音データが合致した。「ザ・テン・ブラック・ベリーズ」にミルズが付いてミルズ(写真右)のだということを強調している。
[ザ・ムーチ]
28年以来何度か録音しているがこの演奏はクオリティが高いと思う。
[ラガマフィン・ロメオ]
この曲は初めて聴くような気がする。サックス陣の柔らかなアンサンブルが特徴的だ。
[イースト・セント・ルイス・トゥードル・オー]
1928年以来久しぶりの録音である。以前に比べてかなりモダンなアレンジメントが施されている。
Trumpet … フレディー・ジェンキンス(Freddy Jenkins)⇒out
Vocal … アーヴィング・ミルズ Irving Mills ⇒ フランク・マーヴィン(Frank Marvin)
以外前回4月3日と同じメンバー。
| CD8-10. | ダブル・チェック・ストンプ | Double check stomp |
| CD8-11. | マイ・ギャル・イズ・グッド・フォー・ナッシング・バット・ラヴ | My gal is good for nothing but love |
| CD8-12. | アイ・ウォズ・メイド・トゥ・ラヴ・ユー | I was made to love you |
右の写真は『自伝』に、「1930年 ハリウッドにて」とコメントがついている。映画『チェック・アンド・ダブル・チェック』にはこのようなシーンはない。デュークが若い女の子に追いかけられている。そのような人気であったのだろうか?
[CD8-10.ダブル・チェック・ストンプ]
ウエルマン・ブラウドのベース・ソロが聴ける。続くホッジスのAsソロも素晴らしいし、Tpソロも見事で聴き応え十分。
[CD8-11.マイ・ギャル・イズ・グッド・フォー・ナッシング・バット・ラヴ]と[CD8-12.アイ・ウォズ・メイド・トゥ・ラヴ・ユー]
フランク・マーヴィンなるヴォーカリストのヴォーカルが入る。この2曲はヒット狙いの曲だと思われる。
Trumpet … フレディー・ジェンキンス(Freddy Jenkins)⇒ back
Accordion … “ジョー”・コーネル・スメルサー “Joe” Cornell Smelser ⇒ In
Vocal … フランク・マーヴィン(Frank Marvin)⇒ ディック・ロバートソン Dick Robertson
以外前回4月11日と同じメンバー。
| CD8-13. | ダブル・チェック・ストンプ | Double check stomp |
| CD8-14. | アコーディオン・ジョー | Accordion Joe |
| CD8-15. | コットン・クラブ・ストンプ | Cotton club stomp |
ヴォーカルがマーヴィンからディック・ロバートソンに変わる。ブライアン・プリーストリー著『ジャズ・レコード全歴史』によれば、この時期アコーディオンが流行し、バンドに加える楽団が多かったというが、それはベニー・モーテン楽団がモーテンの甥っ子、バスター・モーテンを入れてレコーディングを行っているが、その影響であろうか?さすがにデュークはその音色を活かし、違和感ないアンサンブルの構築を行っている。スメルサーはハンガリー出身のピアニストだが、アメリカに移住してからアコーディオンに取り組んだようだ。
CD8-13.[ダブル・チェック・ストンプ]
4月11日の再演。4月11日の録音はクオリティが高かったが、こちらは構成はほぼ同じでアコーディオンを入れて録音したかったのだろう。
CD8-14.[アコーディオン・ジョー]
タイトルの[アコーディオン・ジョー]とは、スメルサーのことでスメルサーのオリジナル。まさにスメルサーをフューチャーした作品。
CD8-15.[コットン・クラブ・ストンプ]
エリントンとミルズの共作。テンポの速い曲で中間のTpのオープンでのソロが見事。
基本形
| CD8-16. | スィート・ドリームス・オブ・ラヴ | Sweet dreams of love |
| CD8-17. | ジャングル・ナイツ・イン・ハーレム | Jungle nights in Harlem |
| CD8-18. | スイート・ジャズ・オマイン | Sweet jazz O'mine |
| CD8-19. | シャウトエム、アント・ティリー | Shout‘em aunt Tillie |
久しぶりにヴォーカルなしのナンバーが4曲並ぶ。僕はこの時点までのエリントン・バンドでは、ヴォーカルが入らない方が好きだ。
CD8-16.スィート・ドリームス・オブ・ラヴは、タイトル通りのロマンティックなインスト・ナンバー。
CD8-19.シャウトエム、アント・ティリーは、どこかで聴いたことのあるメロディだが、思い出せない。2コーラス目とエンディングにおいて木管系3本か4本で吹奏されるアンサンブルが面白い効果を出している。デュークは多様なホーンを組み合わせて色々な音色を創り出すのが楽しくて仕方なかったのではないかと思う。
基本形
| CD8-20. | スィート・ママ | Sweet Mama |
| CD9-1. | ホット・アンド・ボザード | Hot and bothered |
| CD9-2. | ダブル・チェック・ストンプ | Double check stomp |
| CD9-3. | ブラック・アンド・タン・ファンタジー | Black and tan fantasy |
CD8-20.スィート・ママはどこかで聴いたことがあるがすぐに思い出せない。どこかのんびりとしたほんわかとした曲調である。HistorynoCD解説では、この曲とCD9-1.ホット・アンド・ボザードにはヴォーカルにディック・ロバートソンが加わるとなっているが、どう聴いてもヴォーカルは聴こえない。
全体的にアレンジが変に回りくどくなく、この時期としてはソロ・スペースをたっぷりと取ってある。そして各ソロイストが実力があるものだからそれぞれに聴き応えのある出来映えとなるというまとめてみれば至極単純な理由で、聴いていて楽しい。これこそジャズというか音楽の王道ではないかとさえ思う。
さて、エリントンと彼の楽団はこの後西海岸に赴き映画への出演や同地でのレコーディングを行うことになる。大活躍時代である。
Ellingtoniaによれば、1930年6月以降のどの時点かは分からないが、エリントンとその楽団は、2度目の映画出演のためにハリウッドを訪れる。その映画のサウンドトラックがロスアンゼルスでの初レコーディングのようだが、その録音はHistoryのCDセットには含まれていない。ただこの映像は以前紹介したDVD「デューク・エリントン楽団 1929〜1943」に収録されている。と言ってもエリントン楽団が登場する一部を抜粋したものだ。この時期のメンバーは、前期のほぼベスト・メンバーに近いものではないだろうか?そんな彼らが実際に演奏している(演奏しているふりだけかもしれないが)様子を見ることができるのはまことに興味深いものがある。ガンサー・シュラー氏は、この時期ハリウッドで行われた録音に耳を澄ませると、この度はバンドに活気を与えるという効果をもたらしたという印象を受けると述べている。なお、映画自体はYoutubeで簡単に見ることができる。
| Chimes | … | チャーリー・バネット | Charlie Barnet | |
| Chorus(CD9-8) | … | ザ・リズム・ボーイズ | The rhythm boys(Bing Crosby,Al Rinker,Harry Barris) |
| CD9-4. | リング・デム・ベルズ | Ring dem bells | 8月20日 |
| CD9-5. | オールド・マン・ブルース | Old man blues | 8月20日 |
| CD9-6. | リング・デム・ベルズ | Ring dem bells | 8月26日 |
| CD9-7. | オールド・マン・ブルース | Old man blues | 8月26日 |
| CD9-8. | スリー・リトル・ワーズ | Three little words | 8月26日 |
ロスアンゼルスのハリウッドに入ったエリントン楽団は映画出演及び8月初旬に音楽を録音を行った。Ellingtoniaによれば、映画で使われた曲は、”Three little words”、”Old man blues”、”Ring dem bells”、”Nobody knows but the Lord”、”East St.Louis toodle-O”、”Am I blue ?”、”The perfct song”の6曲である。
『自伝』におけるエリントン自身のコメントによると、「当時人気者だった、ラジオのアモス&アンディのチームをフューチャーした映画だった。その映画の主題歌はハリー・ルビーとバート・カルマーの作った『スリー・リトル・ワーズ』だったが、『リング・デム・ベルズ』という私の器楽曲もまた非常に流行った。その曲はほかのバンドによっても演奏され、しばらくの間は非常にリクエストの多い曲目であった」と。実際1930年のポップス・ヒットチャートを見ると「スリー・リトル・ワーズ」は第6位に、「リング・デム・ベルズ」は第29位にランクされている。
そしてその後8月20日と26日にヴィクターのスタジオに入った。
8月20日には上記CD9-4.「リング・デム・ベルズ」とCD9-5.「オールド・マン・ブルース」と「スリー・リトル・ワーズ」の3曲が録音された。その内「スリー・リトル・ワーズ」は、<エマニュエル・ホール・クァルテット>というコーラス・グループのヴァージョンとジミー・ミラーという歌手のヴァージョンの2種類が録音されたがHistoryのCDには収録されていない。収録はされていないが、パーソネルは記載されている。聴いていてヴォーカルが入っていないので一瞬「?」となってしまう。
それから6日後の8月26日には、同じ3曲が録音された。それがCD9-6〜8である。こちらの「スリー・リトル・ワーズ」は、ビング・クロスビーが在団していた<ザ・リズム・ボーイズ>のヴォーカルが入っており、こちらのナンバーはCDに収録されている。
CD9-4と6の「リング・デム・ベルズ」は、どちらもクーティー・ウィリアムスによるサッチモ張りのスキャット・ヴォーカル入りで、ホッジスのアルトが絡んでいる。ガンサー・シュラー氏は、このクーティーとホッジスのやり取りの後、「伴奏としていくつかの素晴らしい「転がるような」サックスの音型のつけられたクーティーのソロが登場する。これらの音型は、流麗でありながら、抑制の効いた興奮を込めてさく裂し、クーティーの突き刺すような素早いソロと完璧な対照を形成し、これを補完する。29年の”Hot feet”の場合と同じように、最後のコーラスは5声部のブラスのコード音を強調するのだが、この響きの隙間に疾走するサックスのアンサンブル奏を聴き取ることができる。これらのブラスの音型は、曲の前半部においてチャイムで奏されたリフの音型の延長である」と述べている。ただ最後のコーラスはブラスのアンサンブルを縫って疾走するのはサックスのアンサンブルではなく、ClやAsのソロだと思うのだが。
因みにこのチャイムは後にバンド・リーダーとなる「白いエリントン」と呼ばれるチャーリー・バーネットの手によるものである。しかしこの時期ルイ・アームストロングもロスに行っており、これも後にバンド・リーダーとなるレス・ハイトとレコーディングを行っていた。エリントンとルイはロズの街で偶然会ったりしなかったのだろうか?クーティーのスキャットは、自分たちより少しばかり前にロスの入ったルイを意識したものかもしれない。
同じく2回録音された「オールド・マン・ブルース」について、シュラー氏は、1928〜31年半ばにかけて、エリントンによる最良のレコードは、「ムード・インディゴ」を別にすれば、この「オールド・マン・ブルース」であると述べて詳細に解説している。以下紹介しよう。
この曲がそれまでの多くの録音に欠けていた気迫と興奮を込めて演奏されたことは明らかである。音楽面でいえば、このレコードはエリントンにとって比類のない啓示であった。作曲―ヘッド・アレンジであれ、実際にかかれた譜面であれーが、彼のグループのソロイストたちの才能を生かす枠組み、つまり彼らの演奏の出発点を形成する点で、効果的であることを教えてくれたからである。
「黒と褐色のファンタジー」のような初期の作品は、一人の特定の音楽家―この場合はババー・マイレイ―の個性が刻印されたものであって、すでに述べたように、ババーのソロの才能が、エリントンがあらかじめ用意した音楽的枠組みといささか齟齬をきたし、統一的な楽想の不在が感じられる。ジャズの統一的一部を形成する集団の均衡が一時的に攪乱されて、そのために構成の継ぎ目が露呈してしまった。ところがこの「オールド・マン・ブルース」では、演奏は構成員全体の真の総和であるとする集団の興奮と感情が再確立されて、作曲と即興の完璧な調和が達成された。
もちろんこの成果こそがジャズの発展に対するエリントンの最大の貢献だった。そしてフランシス・ニュートン(アメリカのジャズ評論家)がその著「ニュー・ステイツマン」において見事に要約したように、「生き生きとした、変わりやすい、即興的な民族音楽をその自発性を剥奪することなしに作品化するという信じがたく困難な課題を解決した」のである。
「オールド・マン・ブルース」の形式(譜例18参照)は、ほとんど革命的なところはないが、形式と音楽の内容との関係の解決の模範的な回答であった。つまりこの作品は、総体としては、組織され、あらかじめ指定された形式のもたらす諸要素を満足させながらも、音楽家に対して、ジャズに固有な自由を保証する手法を発見していた。再びフランシス・ニュートンの論文から引用すれば、エリントンは、「演奏者によって創造されると同時に作曲家によっても十分に形成された」音楽を作り上げたのだ。
「オールド・マン・ブルース」では、音楽家たちは、このように一見対立する諸要素によって拘束されているようには見えない。実際のところ、彼らはおそらく大きな単位の形式については無自覚であって、したがってまたこれに妨害されなかった。彼らにとっては、これもまた単なるコーラスの一つであって、良くもなるし、まずくもなる、どうでもよくなるものでもあるのだろう。
幾つかのソロは大変優れているが、ビガードは、彼自身の「タイガー・ラグ」での常套句にまたもやあまりに頼りすぎて一番乗りが悪い。カーネイとナントンは確かに絶好調である。カーネイは珍しくも少しはしゃいでいる様子であるし、ナントンは三つの別な対照的なソロで登場する。「オールド・マン・ブルース」は、録音の調性がたまたま良好な個所がいくつもあって、例えば、第1コーラスのブリッジでは、ナントンのTbがビガードの低音域のClの装飾的楽句と、双方のパートが一人の人間によって演奏されたかのように、完璧に一体化し、融合している。

カーネイの背後でのエリントンの優れたP伴奏、ブラウドの4ビートのウォーキング・ベースも特筆に値する。和声的にも、この曲には少々独創的なところがある。最終コーラスの前の4小節のブレイクで、3本のTpと1本のTpがシンコペイションで反復されるコードを奏するが(譜例19)、これは29年の”Hot feet”の末尾のコードと類似するもので、またもや音階の半音6度をルート音とする。
この和音は、今日では常識であるが、この曲が録音された時点のジャズの世界では、斬新だった。この和音を使用した初期の事例は、シュラー氏の知る限り、アルフォンス・トレントの1930年の”I found a new baby”の最終コーラスに登場するものだという。付言すれば、この偉大な南部のバンドの革新的な書法と高度な演奏技術は、トレントの歩みとエリントンの歩みが交錯したかどうか、そしてまた何らかの影響関係が発生したかどうかという疑問を提起するという。アルフォンス・トレントの楽団は南部で最も優良なバンドだったともいわれているが、今の日本ではほとんどレコードは出ていないと思われる。僕も未聴である。
CD9-11.「スリー・リトル・ワーズ」に加わっているザ・リズム・ボーイズは、以前1928年ビックス・バイダーベックが加わっていたポール・ホワイトマン楽団で歌っていた。その時はニューヨークにおける録音だったが、この時にはロス・アンゼルスに戻っていたのだろうか?
Vocal…ザ・リズム・ボーイズ The rhythm boys(Bing Crosby,Al Rinker,Harry Barris)⇒ ディック・ロバートソン Dick Robertson
| CD9-9. | ヒッティン・ザ・ボトル | Hittin’ the bottle |
| CD9-10. | ザット・リンディ・ホップ | That Lindy hop |
| CD9-11. | ユア・ラッキー・トゥ・ミー | You’re lucky to me |
| CD9-12. | メモリーズ・オブ・ユー | Memories of you |
エリントン楽団は、ロスのハリウッドでの映画出演及び録音を終え、ニューヨークに戻って来る。いつ戻ったのか正確なところは分からないが、戻るや否や再び精力的な活動を開始するのである。先ずは、10月2日ヴィクターに4面分の録音を行った。全曲ディック・ロバートソン(写真右)のヴォーカルが入る。どの曲も先ずアンサンブルが見事である。
CD9-9.[ヒッティン・ザ・ボトル]
カーネイのBsソロ、ビガードのTpセクションの伴奏を受けたカデンツァなど聴き処が多い。
CD9-10.[ザット・リンディ・ホップ]
ホッジスのAsソロ、御大エリントンのソロと主役が変わって聴き処を作っている。
CD9-11.[ユア・ラッキー・トゥ・ミー]
ソフトなナンバーで、Tp、Tbのソロが入る。
CD9-12.[メモリーズ・オブ・ユー]
以前も登場したスタンダード・ナンバー。直近では、ルイ・アームストロングの録音があったなぁと思っていたら、ルイの録音は1930年10月16日で、ルイの方が後だった。当時ヒットしていた曲なのだろう。「あなたの思い出」というメローなタイトルだが、終止力強いアンサンブルが聴かれる。この録音でもバンドは好調のように思える。
| Band leader & Piano | … | デューク・エリントン | Duke Ellington | ||
| trumpet | … | アーサー・ホェッツェル | Arthur Whetsel | ||
| Trombone | … | ジョー・”トリッキー・サム”・ナントン | Joe “Tricky Sam” Nanton | ||
| Clarinet & Tenor sax | … | バーニー・ビガード | Barney Bigard | ||
| Banjo | … | フレッド・ガイ | Fred Guy | ||
| String Bass | … | ウェルマン・ブラウド | Wellman Braud | ||
| Drums | … | ソニー・グリア | Sonny Greer |
約10日後には、ピックアップ・メンバー・セプテットにより2面分の録音が行われた。
| CD9-13. | ビッグ・ハウス・ブルース | Big house blues |
| CD9-14. | ロッキー・マウンテン・ブルース | Rocky mountain blues |
CD9-13.[ビッグ・ハウス・ブルース]は、Tpのホェッツェルをフューチャーしたナンバーで、彼のプレイをはっきり聴けるのはこれまであまりなかったような気がする。CD9-14.[ロッキー・マウンテン・ブルース]で、ビガードのClソロと絡み合うような伴奏のブラウドのベース、間を効かせたエリントン、Tpのソロなど聴き処が多い。Ellingtoniaでは、同日”Mood indigo”も録音したように書いてあるが、HistoryのCDセットには収録されていないが、10月30日録音となっている”Mood indigo”がそれかもしれない。
基本形+Vocal … ディック・ロバートソン Dick Robertson
| CD9-15. | ラニン・ワイルド | Runnin’ wild |
| CD9-16. | ドリーム・ブルース(ムード・インディゴ) | Dreamy blues(Mood indigo) |
前録音から3日後の録音。今回はフル・メンバーによる演奏。
CD9-15.[ラニン・ワイルド]
弾むような元気のよい曲。ブラウドのベースがよく唸っている。さすがヴィクター、録音が良い。アンサンブルの響きが少し変わっているような感じがする。
ムード・インディゴ
夢見るような魅力的なメロディーで、僕の大好きな曲。この後エリントンは何度も録音しているがこれが初演である。また多数のジャズマンにカヴァーされた重要曲でもある。デューク自身は『自伝』でこの曲のエピソードを次のように記している。
「1930年も深まり秋となって、(中略)私はすでに3曲を作り、母が夕食を作るのを待っている間に4曲目に取り掛かった。『ムード・インディゴ』のスコアは15分で書いた。私たちはその曲をレコーディングした。そしてその夜コットン・クラブでまさに放送が始まろうという時、アナウンサーのテッド・ハジングが『デューク、今夜は何を演るんだい?』と訊くから、その新曲を告げた。それで私たちは11人のバンドから6人を選んで演奏し、ラジオに流したのである。次の日その新曲について大騒ぎした郵便物がたくさん来たので、アーヴィング・ミルズはそれに詞をつけ、しかも40年たった今でも私が夕食時に作った作品に印税が入ってくるのである。」
さらに柴田浩一市は、この曲にはエリントン自身の次のような解説がついているといいます。
「ある少年と少女の物語です。誰かが少年に言います。あの娘はお前の恋人だから、彼女の前でドギマギと慌てても決して男らしさは無くしてはいけない。と話して聞かせます。少年は彼女が家の前の階段に座っている前を通るたびに、きちんと帽子をかぶりなおして見せます。ある日、少女の母親が家に入りなさいと命じます。少女は窓の外を眺めて心は藍色になるのです。」
分かるようなよくわからないような解説ですが、ともかくテーマを奏する3管が素晴らしいといいます。録音が10月後半だったことからヒットするのは翌年で1931年度のポップス・ヒット・チャートでは第3位にランクされている。
シュラー氏は、「オールド・マン・ブルース」を、「ムード・インディゴ」に匹敵する最良の録音とし詳述していますが、その「ムード・インディゴ」の解説については、半音6度への特有な進行を含む独特な和声進行について触れるのみでそれ以上の解説はない。不思議なことだ。
| CD9-17. | ホーム・アゲイン・ブルース | Home again blues |
| CD9-18. | ワン・ワン・ブルース | Wang wang blues |
2曲ともヴォーカル入りで、Ellingtoniaでは、ヴォーカルがディック・ロバートソンとベニー・ペインとなっているのに対して、Historyではアーヴィング・ミルズとベニー・ペインとなっている。声を聞く限りアーヴィング・ミルズではないように思える。CD9-18.「ワン・ワン・ブルース」は直近では、1929年録音のフレッチャー・ヘンダーソンのものを取り上げた。この曲は当時人気があったということで、エリントン達もヒットにあやかろうとしたのであろう。
バンド名「ザ・ハーレム・ミュージック・マスターズ」は初めて登場する名称だが、面子は基本形。ヴォーカルにアーヴィング・ミルズが参加している。
| CD9-19. | リング・デム・ベルズ | Ring dem bells |
| CD9-20. | スリー・リトル・ワーズ | Three little words |
| CD10-1. | オールド・マン・ブルース | Old man blues |
| CD10-2. | スィート・チャリオット | Sweet Chariot |
| CD10-3. | ムード・インディゴ | Mood indigo |
CD9-19〜CD10-1の3曲はロスアンゼルスで2度録音しているが、ニューヨークに戻っては初めてとなる。この辺りからEllingtoniaとHistoryの記載がだいぶ変わってくる。
上記データはHistoryのもので、EllingtoniaではCD9-19と20はザ・ハーレム・ミュージック・マスターズ (The harlem music masters)名義で、CD10-1と2はザ・ハーレム・フットウォーマーズ(The harlem footwamers)名義となっている。そして”Mood indigo”は10月30日には録音されておらず、この曲が録音されるのは11月8日の次セッションとなっている(ただし”Unissued”)。いずれにせよ僕には決め手がないので、奏法記述する。
CD9-19.[リング・デム・ベルズ]は前回録音と同様クーティー・ウィリアムス(写真右)が取っている。あのサッチモ張りのスキャットは白人のミルズには無理なのであろう。
CD9-20.[スリー・リトル・ワーズ]は、リズム・ボーイズのコーラスものだったが、ここではミルズがソロで取っている。
CD10-1.[オールド・マン・ブルース]は、ロスアンゼルス録音と比べて聴くと面白い。こちらの方が全体的には曲が整理されて整ってきた感じがする。
CD10-2.[スィート・チャリオット]は初登場で、ヴォーカルを取るのはクーティー。クレジットによると、ゴスペルのトラディショナル・ナンバーで”Swing low , sweet chariot”という曲とは別曲でエリントンの作という。ヴォーカルを含めクーティーをフューチャーしたナンバー。
10月30日の次のレコーディングが11月8日ということについては、Ellingtonia、Historyとも同じであり、パーソネルも同じであるが、収録曲がまるで違う。
基本形
| ムード・インディゴ | Mood indigo |
| ナイン・リトル・マイルス | Nine little miles |
| アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー | I'm so in love with you |
| CD10-4. | アイ・キャント・リアライズ・ユー・ラヴ・ミー | I can't realise you love me |
| CD10-5. | アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー | I'm so in love with you |
| CD10-6. | ロッキン・イン・リズム | Rockin’in rhythm |
このようにEllingtoniaとHistoryでは、「アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー」以外レコーディングデータが全く異なるが、音源があるのはHistoryなので、これに即して聴いていこう。
CD10-4.[アイ・キャント・リアライズ・ユー・ラヴ・ミー]は、初めて聴くナンバーだと思う。シド・ギャリー(Sid Carry)という人物のヴォーカル入りである。右の写真は戦争犯罪人プーチンではなく、シド・ギャリー。ヴォーカルの後のソロ・スペースがTp、Asの本当に短いソロが交互に立ち現れる。
CD10-5.[アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー]も初めて聴くナンバーと思う。この曲はEllingtonia、Historyにも記載されているナンバー。ただEllingtoniaには、歌っているのはドラムのソニー・グリアとある。
CD10--6.[ロッキン・イン・リズム]も問題で、この曲はエリントン楽団の代表曲だと思うのだが、この曲はEllingtoniaでは、1930年の別レコーディング・リストにも載っていない。どちらが正しいのだろうか。
次のレコーディングは11月21日であることとヴォーカルを除いたパーソネルはEllingtoniaとHistoryとも同じ。しかしここでも曲及び曲数が異なる。
基本形
| ホワット・グッド・アム・アイ・ウィズアウト・ユー | What good am I without you |
| ブルー・アゲイン | Blue again |
| ホエン・ア・ブラック・マンズ・ブルー | When a black man’s blue |
| CD10-7. | <ナイン・リトル・マイルス・フロム・テン−テン‐テネシー | Nine little miles from Ten-Ten-Tnnessee |
| CD10-8. | アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー | I'm so in love with you |
ヴォーカルについて、Ellingtoniaはディック・ロバートソンとソニー・グリアとしているのに対してHistoryはスミス・バリュー(Smith Ballew 写真右)なる人物としている。
CD10-7.[ナイン・リトル・マイルス・フロム・テン−テン‐テネシー]は言葉遊びのようなコミカル・ソングである。
CD10-5.[アイム・ソー・イン・ラヴ・ウィズ・ユー]は約2週間前の再録。特に前録音から変わったところはないようだ。
Ellingtoniaでは、11月21日の次のレコーディングは12月10日で、この年のエリントンのレコーディングは終わるのであるが、Historyでは、11月26日にニューヨークで3曲ほどレコーディングを行ったことになっている。
基本形
| CD10-9. | ホワット・グッド・アム・アイ・ウィズアウト・ユー | What good am I without you |
| CD10-10. | ブルー・アゲイン | Blue again |
| CD10-11. | ホエン・ア・ブラック・マンズ・ブルー | When a black man's blue |
これはEllingtoniaでは11月21日に行われたレコーディングと同じ曲名である。もちろん僕にはどちらが正しいのか判断することは出来ないので、とりあえずHistoryではという但し書き付きで挙げておこう。
CD10-9.[ホワット・グッド・アム・アイ・ウィズアウト・ユー]
オリジナルではない。ヴォーカルをフューチャーしたスロウでメロウなポップス・ナンバー。声質がシド・ギャリーとは異なるような気がする。
CD10-10.[ブルー・アゲイン]
これもオリジナルではない。ミディアム・テンポのヴォーカル・ナンバーで、プロフィールから考えるとこのバリトン・ヴォイスはシド・ギャリーではないかと思う。
>CD10-11.[ホエン・ア・ブラック・マンズ・ブルー]
これもオリジナルではなく、このセッションはエリントンのセッションというよりも白人歌手のバックを務めたものという気がする。
そしてこの年最後のレコーディングは、12月10日に行われるが、データについてはEllingtonia、Historyとも一致している。
基本形
Vocal … Irving Mills + ベニー・ペイン Bennie Payne
| CD10-12. | ホワット・グッド・アム・アイ・ウィズ・ユー? | What good am I without you ? |
| CD10-13. | ホエン・ア・ブラック・マンズ・ブルー | When a black man's blue |
| CD10-14. | ムード・インディゴ | Mood indigo |
CD10-12.[ホワット・グッド・アム・アイ・ウィズ・ユー?]
11月26日のセッションでも取り上げた曲。データから見ると歌手を変えたような気がするがこれはどういう意図によるものだろうか?
CD10-13.[ホエン・ア・ブラック・マンズ・ブルー]
これも11月26日のセッションでも取り上げた曲。ベニー・ペインのヴォーカルをフューチャー曲だと思う。これも歌伴もの。
CD10-14.[ムード・インディゴ]
これも再録物で3回目の録音となる。
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