デューク・エリントン 1933年

Duke Ellington 1933

柴田浩一『デューク・エリントン』

1927年から続いたコットン・クラブとの専属契約を終え、6月敏腕プロデューサー、アーヴィング・ミルズの手腕により初の海外公演を行う。その場所はイギリス・ロンドンのパラディウムで、当時ヴァラエティを上演する劇場としては世界最高とみられていたという。デュークは熱狂的なイギリスのファンに支持され、歓迎パーティーにおいては皇太子エドワード8世、後のウィンザー公から、デュークのレコード・コレクターだと言われ感激したというのは有名なエピソードである。右の写真はイギリスのサザンプトンに到着したデューク一行。前列中央に座っているのがデュークでその右隣りがアーヴィング・ミルズ。
しかし『デューク・エリントン』(愛育社)の著者柴田氏は、「受け入れてくれたのはごく一部の音楽家、知識人、そして上流階級の人たちで決して一般的ではなかった」と水を差すようなことを書いている。確かにデユーク自身も自伝では、歓迎ぶりに感激しながらも「1933年に行った時はヨーロッパ進出のいい踏み石にはできなかった」と書いている。
この年も歌手が加わったりバンド名が変わったりしているし、メンバーも録音毎に多少の入れ替えがあったりするが、基本メンバーに大きな移動はないので、移動があった時だけその内容を記載することにする。
またこの回も音源は全てHistory社から出ている"The Duke"(History 204140 302〜204159 302)CD40枚組なので、コンテンツ表記は曲名のみにする。

<基本形Personnel>

Band leader & Pianoデューク・エリントンDuke Ellington
trumpetアーサー・ウェッツェルArthur Whetselクーティ・ウィリアムスCootie Williamsフレディ・ジェンキンスFreddie Jenkins
Tromboneジョー・”トリッキー・サム”・ナントンJoe “Tricky Sam” Nantonローレンス・ブラウンLawrence Brown
Valve‐Tromboneファン・ティゾールJuan Tizol
Clarinet,Soprano,Alto & saxジョニー・ホッジスJohnny Hodges
Clarinet & Tenor saxバーニー・ビガードBarney Bigard
Clarinet,Alto & Baritone saxハリー・カーネイHarry Carney
Banjo & Guitarフレッド・ガイFred Guy
String Bassウェルマン・ブラウドWellman Braud
Drumsソニー・グリアSonny Greer
アデレイド・ホール

<Date & Place> … Ellingtonia、History共 1933年1月7日 ニューヨークにて録音

<基本形Personnel> … アデレイド・ホール・ウィズ・デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Adelaide Hall with Duke Ellington and his famous orchestra)

Ellingtoniaでは、フレディー・ジェンキンスが抜け、ヴォーカルはアデレイド・ホールとしているのに対して、Historyでは、フレディー・ジェンキンスは抜けず、CD13-9、10に関してのヴォーカルの記載はなく、CD13-11はアイヴィー・アンダーソンとしている。
「アイ・マスト・ハヴ・ザット・マン」、「ベイビー!」のヴォーカルはどう聴いてもアデレイド・ホール(Adelaide Hall)だと思う。更にCD13-11「イーリー・モーン」には、ヴォーカルが入っていない。今回はHistoryの負けである。
また同日の同一セッションの録音で、CD13-11.「イーリー・モーン」にだけ、Clarinet , Alto & Baritone sax … オットー・ハードウィック(Otto Hardwick)が加わるとHistory及びEllingtonia双方が一致して記載している。なぜ?ちょっと不思議である。

<Contents> …ARC

CD13-9アイ・マスト・ハヴ・ザット・マンI must have that man
CD13-10ベイビー!Baby !
CD13-11イーリー・モーンEerie moan

CD13-9.[アイ・マスト・ハヴ・ザット・マン]、CD13-10.[ベイビー!]
この2曲はドロシー・フィールズ作詞ジミー・マクヒュー作曲で「ブラックバーズ」レヴューの中の挿入歌。この録音がオリジナルのようだ。アデレイド・ホールはどちらと言えば舞台のシンガーで、ジャズ・シンガーではない。この2曲ではスキャットを披露するがどうにも様になっておらず無理をしている感じがする。
CD13-11.[イーリー・モーン]
スロウでメランコリックなナンバー。Cl、Tsのソロがフューチャーされるが僕には聴き分ける力がないので、ソロイストを記述してくれると助かるのだが…。

History盤CD 40枚組の13枚目

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年2月15、16、17日ニューヨークにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Duke Ellington and his famous orchestra)

バンド・メンバーはEllingtoniaとHistoryとも同様。前録音とほとんど変わりないのだが、Ellingtoniaでは前録音でフレディー・ジェンキンスが抜けたことになっているので、復帰したことになる。

<Contents> … English Columbia

CD13-12メリー・ゴー・ラウンドMerry‐go‐round2月15日
CD13-13ソフィスティケイティッド・レディSophisticated lady2月15日
CD13-14想いのままI’ve got the world on a string2月15日
CD13-15ダウン・ア・キャロライナ・レーンDown a Carolina lane2月16日
CD13-16スリッパリー・ホーンSlippery horn2月17日
CD13-17ブラックバード・メドレー・パート1Blackbird Medley part 12月17日
CD13-18ブラックバード・メドレー・パート2Blackbird Medley part 22月17日
CD13-19ドロップ・ミー・オフ・アット・ハーレムDrop me off at harlem2月17日

6月にイギリスに行くことになっているので、イギリス用に録音したものであろう。
CD13-12.[メリー・ゴー・ラウンド]
アップ・テンポでスインギーなナンバー。各自のソロが楽しめるが、僕は当時としては珍しいカーネィによるBsソロが注目だと思う。Clソロはビガードだろうか?ジミー・ヌーン風のヴィブラートが気になる。
CD13-13.[ソフィスティケイティッド・レディ]
数あるエリントンの名曲の一つ。これが初演。エリントンの無伴奏ソロも聴かれる。美しいTbソロはブラウンか?何といってもホッジスのAsソロが独特の個性を発揮し始めていて注目だと思う。
CD13-14.[想いのまま]
ハロルド・アーレン作でルイ・アームストロングが1月に録音している。ここでのヴォーカルはアイヴィー・アンダーソン(Ivie Anderson)でこれはEllingtonia、Historyとも一致しているし、声を聴いてもそうだと思う。Tbソロはブラウンではないかと思う。
CD13-15.[ダウン・ア・キャロライナ・レーン]
アンサンブルでガイのバンジョーが聴こえるのは珍しい。ソロはデュークが無伴奏でとる他ソロらしきソロはない、アンサンブル中心の曲。
CD13-16.[スリッパリー・ホーン]
デューク作。アンサンブルの後Cl、Tp、Tbのソロが続きアンサンブルからエンディングに向かう。
CD13-17、18.[ブラックバード・メドレー]
デュークお得意のメドレー・ナンバー。「ブラックバーズ」のナンバーをメドレーにしたもので、「パート1」は、(Intro-‐I can't give you anything but love −-Doin’the new low-down −-I must have that man-‐Baby !)、「パート2」は、(Intro‐Dixie‐Diga diga doo−Porgy−I can't give you anything but love)をうまく繋いで演奏される。いずれもヴォーカルは含まれていない。
CD13-19.[ドロップ・ミー・オフ・アット・ハーレム]
エリントン作のミディアム・テンポのメロウなナンバー。

ステージで歌うアイヴィー・アンダーソン

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年5月9日ニューヨークにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Duke Ellington and his famous orchestra)

Tenor sax … Barney Bigard ⇒ ジョー・ガーランド(Joe garland)
このセッションではビガードに代わってジョー・ガーランドというテナー・サックス奏者が加わっている。これはHistory、Ellingtoniaとも一致している。しかし1週間後の次回5月16日にはビガードに戻っているので、病欠とか一時的な交代であろう。

<Contents> … Brunswick

CD13-20ハッピー・アズ・ザ・ディ・イズ・ロングHappy as the day is long
CD14-1レイジン・ザ・レントRaisin’the rent
CD14-2ゲット・ユアセルフ・ア・ニュー・ブルームGet yourself a new broom

この3曲はアイヴィー・アンダーソンのヴォーカル・ナンバー。3曲とも「コットン・クラブ・パレード」のためにテッド・ケーヒアーとハロルド・アーレンが作ったナンバー。流石にメロディアスなナンバーである。

History盤CD 40枚組の7セット目

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年5月16日ニューヨークにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Duke Ellington and his famous orchestra)

Tenor saxがジョー・ガーランドからビガードに戻っている。

<Contents> … ARC

CD14-3バンドル・オブ・ブルースBundle of blues
CD14-4ソフィスティケイティッド・レディSophisticated lady
CD14-5ストーミー・ウェザーStormy weather

Historyでは、アイヴィー・アンダーソンのヴォーカル・ナンバーとなっているが、3曲ともインストのナンバーである。
CD14-3.[バンドル・オブ・ブルース]
エリントン作。なんとなく「スターダスト」に似ている。少しテンポを落としたメロウな曲。
CD14-4.[ソフィスティケイティッド・レディ]
2度目の録音。冒頭の柔らかなTbがローレンス・ブラウンかもしれない。Clのプレイはほぼ前回と変わらないが、デュークのピアノ・ソロは大きく変わっている。出来としてはこちらの方が良いのではないかと思う。2回の録音の内どちらかが年間ヒットチャート第2位にランクされるヒットとなった。
CD14-5.[ストーミー・ウェザー]
これもハロルド・アーレンの代表作。上記のようにHistoryではアイヴィーのヴォーカル入りとなっているが、ここでの録音はインストのみである。アイヴィーのヴォーカル入りで同曲を吹き込むのは1940年になってからである。

イギリス・サザンプトンに到着したデューク一行

6月に入って、アーヴィング・ミルズの手腕により初の海外公演を行う。デューク達は、6月2日オリンピック号という船でイギリスに向かった。右はサザンプトン港についた一行。

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年7月13日 ロンドンにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Duke Ellington and his famous orchestra)

同前。イギリスにアイヴィーを帯同したがレコーディングには参加していない。

<Contents> … English Decca

CD14-6ハイド・パークHyde park7月13日
CD14-7ハーレム・スピークスHarlem speaks7月13日
CD14-8浮気はやめたAin't misbehavin’7月13日
CD14-9シカゴChicago7月13日
CD14-10ア・スーヴェニア・オブ・デューク・エリントンA souvenir of Duke Ellington7月14日

CD14-6〜10までは、イギリスを訪れた時の録音である。CD14-8はファッツ・ウォーラー作のスタンダード・ナンバー。
珍しいのはCD14-10で『デューク・エリントンのお土産」と題して、当時イギリスの有力音楽雑誌「メロディー・メイカー」の編集者パーシー・マチソン・ブルックス(Percy Mathison Brooks)のインターヴューを受けた時の録音。6枚デュークのレコードを買うともらえた特典らしい。

この後パリにも足を延ばしサン・ブレイエルでも演奏したという。デュークはこの時の印象を次のように述べている。「ヨーロッパの雰囲気、友情、それにあらゆる類の批評家や音楽家たちが示してくれた私たちの音楽への真面目な関心は、私たちに新たなスピリットを吹き込み、私たちはコニャックとシャンパンで顔を紅潮させつつマジェスティック号で帰路に就いた。」

『デューク・エリントン自伝』

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年8月15日ニューヨークにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・フェイマス・オーケストラ(Duke Ellington and his famous orchestra)

<Contents> … ARC

CD14-11アイム・サティスファイドI'm satisfied
CD14-12ジャイヴ・ストンプJive stomp
CD14-13ハーレム・スピークスHarlem speaks
CD14-14リンゴの木の下でIn the shade of the old apple tree

CD14-11.[アイム・サティスファイド]
アイヴィー・アンダーソンのヴォーカル入り。なぜかこの後アイヴィーのヴォーカルは録音されなくなり次回は翌1934年まで吹き込まれていない。
デュークは右の『自伝』で意外なことを書いている。1933年パラディウムのショウはいつものようにアンダーソンの『ストーミー・ウェザー』で幕を開けたのだが、これが聴衆たちに感激の渦を作り出す。そして次のように書くのである。「(アンダーソンは)1933年のロンドンのパラディウムでショウの世界からきっぱりと足を洗ってしまったのだ。」これはどう意味なのだろうか?彼女はその後もしばらくは在団しレコーディングを行っている。聴衆の前で歌うことは止め、レコーディングのみ参加するということなのだろうか?
CD14-12.[ジャイヴ・ストンプ]
エリントンの作。ミュートTpとカーネイのBsの対話のようなイントロが面白い。その後のサックスのアンサンブルが柔らかくてエリントン楽団らしい。短いClソロなどはあるが、アンサンブル中心のナンバー。
CD14-13.[ハーレム・スピークス]
エリントンとミルズの共作という。Tpのリードする合奏からAs、Tp、Bs、Tpと短いソロを繋ぎ、再びミュートTpがリードする合奏に移る。
CD14-14.[リンゴの木の下で]
1905年に楽譜が発売された古いナンバーで、初期にはヘンリー・バー (Henry Burr)やアルバート・キャンベル (Albert Campbell)、ハイドン・カルテット (Haydn Quartet) 、ハリー・マクドノフ (Harry Macdonough)、アーサー・プライアー (Arthur Pryor)などのレコードがヒットしたといわれる。そしてこのデュークの録音で再びリヴァイバル・ヒットすることになったという。

History盤CD 40枚組の14枚目

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年9月26日シカゴにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Duke Ellington and his orchestra)

Trumpet & Vocal … ルイ・ベイコンLouis Bacon)⇒ In
Tpにチック・ウエッブ、ベッシー・スミスなどのレコーディングに参加したルイ・ベイコンが加わっている。しかし翌1月の録音には参加していないので一時的なものであろう。

<Contents> … RCA‐Victor

CD14-15ルード・インターリュードRude interlude
CD14-16ダラス・ドーイングスDallas doings

レコード会社がRCAヴィクターへの吹込みで、この9月から翌年1月までシカゴで録音を行っている。
CD14-15.[ルード・インターリュード]
エリントン作。ゆったりとしたメロウなナンバー。ベイコンは渋い声のスキャットも披露している。
CD14-16.[ダラス・ドーイングス]
これもエリントン作。効果音担当(?)のソニー・グリア―が様々な打楽器で合の手を入れるようにアンサンブルにアクセントをつけている。

<Date & Place> … Ellingtonia、History共1933年12月4日シカゴにて録音

<基本形Personnel> … デューク・エリントン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Duke Ellington and his orchestra)

Valve‐Trombone … ファン・ティゾール ⇒ Out
この録音では、トロンボーンのファン・ティゾールの名前がない。これはEllingtonia、Historyとも共通している。しかし翌1月の録音には参加しているので一時的なものであろう。

<Contents> … RCA‐Victor

CD14-17ディア・オールド・サウスランドDear old southland
CD14-18デイブレーク・エキスプレスDaybreak express

CD14-17.[ディア・オールド・サウスランド]
ヘンリー・クリーマー作詞ターナー・レイトン作曲で1921年に出版された古いナンバー。1930年にルイ・アームストロングが録音しているナンバー。ここでもベイコンの渋い声が聴ける。
CD14-18.[デイブレーク・エキスプレス]
エリントンの自作。汽車がゆっくり走りだしてやがて疾走する。そして次第にテンポを落としていって汽車が止まり演奏も終わる。これまでこのような作品というのはあったのだろうか?画期的な試みと言っていいかもしれない。

この年もデュークの録音はヴァラエティに富んでいる。

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