ルイの去ったヘンダーソン楽団はどうなったのであろう。ルイが去った後ヘンダーソン楽団はどうしていたか?コルネットにラッセル・スミスを加え、盛んに活動していたのである。吹込みも多く行っていたようである。しかし”T.N.T.”以降から約1年後の1926年末までの録音で、このCD“A study in frustration”に収録されているのは、今回取り上げる2セッションの計4曲だけである。
シュラー氏は、1926年初頭にもう一人若い、新鮮な響きの持ち主がバンドに加わったことが全く研究されてこなかったと指摘している。その人物とは、Tbのベニー・モートンである。なぜ研究されて来なかったかというと、最近まで(シュラー氏の本は1968年出版)1926−28年の時期のTbの演奏は、チャーリー・グリーンか、ジミー・ハリソンのいずれかと思われていたからだという。しかし事実はベニー・モートンであることは間違いないとシュラー氏は述べる。
モートンのしなやかでモダンにスイングするスタイルと超絶的演奏技巧は他の奏者たちよりも、ハリソンよりも数年先んじていたとし、ヘンダーソン自身にも数年後まで理解も評価もされていなかったという。その先進的なプレイは「春が姿を見せ始めるころ(“When spring comes peeping through ”)」を聴けば明瞭だと書くが、この曲はCD“A study in frustratin”には収録されておらず、未聴である。
なお、ヘンダーソンのディスコグラフィーを見ると1926年には件の“When spring comes peeping through ”も含めて27面分の録音を行ったようだが、CD“A study in frustratin”に収録されているのは2セッション4曲だけである。
そしてこの4面分の吹込みの日付について触れておきたい。CD“A study in frustratin”には、CD-12,13の録音日が5月14日、CD-14,15が1926年3月11日と記載されている。しかしヘンダーソンのディスコグラフィーにはCD-12,13の録音日は11月3日、CD-14,15が5月14日と記されている。こう日本語で書くと「11月3日」と「3月11日」を間違えたのだろうと思われるかもしれないが、このCDは輸入盤なので実際には”March 11,1926”と記載されている。
要は、CD-14,15についてはCD、Webとも同じでパーソネルも同じなので問題ないであろう。問題はCD-12,13の録音日である。その前にパーソネルは同じ記載であるが、11月3日か3月11日か?こういった食い違いのどれが正しいかの判定は僕にはできないが、このCD“A study in frustratin”はほぼ録音順に曲を収録しているが、もし「3月11日」録音が正しいとすればなぜここだけ順番を変えたのだろう。後に触れるようにファッツ・ウォーラーのPとOrgの記載のこともあり、僕はこのCDの記載についてちょっと怪しいなと思っているので、ここではWebディスコグラフィーに従うことにした。またガンサー・シュラー氏も「ヘンダーソン・ストンプ」を1926年の終わりころに録音されたとしている。
| Piano & Band reader | … | フレッチャー・ヘンダーソン | Fletcher Henderson | |||
| Trumpet | … | ジョー・スミス | Joe Smith | 、 | ラッセル・スミス | Russell Smith |
| Cornet | … | レックス・スチュワート | Rex Stewart | |||
| Trombone | … | ベニー・モートン | Benny Morton | |||
| Clarinet | … | バスター・ベイリ― | Buster Bailey | |||
| Clarinet ,Alto sax & Oboe , arranger | … | ドン・レッドマン | Don Redman | |||
| Clarinet & Tenor sax | … | コールマン・ホーキンス | Coleman Hawkins | |||
| Banjo | … | チャーリー・ディクソン | Charlie Dixon | |||
| Tuba | … | ラルフ・エスクデロ | Ralph Escudero | |||
| Drums | … | カイザー・マーシャル | Kaiser Marshall |
| CD1-12. | ザ・スタンピード | The stampede |
| CD1-13. | ジャッカス・ブルース | Jackass blues |
CD1-12.ザ・スタンピード
突然で恐縮だが、僕は高校生の時からこの大作編集もの“A study in frustration”(レコードでは4枚組)が欲しくて欲しくてたまらなかった。何故か?この「ザ・スタンピード」が聴いてみたかったのである。そのココロは、わが師粟村政昭氏の次の言葉である。「ヘンダーソン楽団の“A study in frustration” に入っている“The stampede”のソロを聞いて感動せぬ奴は人間ではないと思う。」(『ジャズ・レコード・ブック』ジョー・スミスの項)。これを聞けば自分は人間かそうではないかが分かるのだ。試してみたくないはずがない。
果たして結果は…「僕は人間ではなかった」。
そもそもこの曲はアップ・テンポなのである。弾むような元気あふれる演奏なのである。この曲でTpソロは2か所あるが、どちらも元気のよい吹奏ぶりである。元気のよい曲に感動してはいけないということはないのだが…。
これ以上のコメントは必要ないような気がするが、一応シュラー氏はもう少し詳しく述べている。「“The stampede”は、最初の数秒からこのバンドに新しい雰囲気が生まれたことがはっきりする作品だ」とし、「ルイと交替したレックス・スチュワートが演奏全体の活発な雰囲気を刻印する鋭角的で元気あふれる導入のソロで口火を切る。ここで我々の注意は、レッドマンの書いた突飛な全音階の導入部やトリオではなく、ソロイストやこのバンドの新しい弾みのついた演奏に向けられることが重要である。ホーキンスが、ルイのスタイルの旋律で作られた、長くて、構造のしっかりしたソロを提示する。スミスとスチュワートのソロは、それぞれこのバンドの現在のスタイルと未来のスタイルを、対照的なコーラスの中で反映している。Clのトリオですらも普段よりは出来栄えの良い演奏で、(譜例5)の鮮やかなブレイクを披露する。リズムは以前としてツー・ビートの感覚であるが、より水平的な流れを持ち始め、スイングする傾向がある。」
ルイの後釜に入ったのがラッセル・スミスで、エルマー・チェンバースの後釜として加入したのがレックスだと思うのだが、シュラー氏は違う見解を示している。ともかく活気ある演奏であることは間違いないが、その口火を切ったのはジョー・スミスではなくレックスだとしている。貢献度はレックスの方が上ということだろう。粟村先生反論をお願いしたかったなぁ。
ジャッカス・ブルース(Jackass blues)
CD1-15.The chantと同じメル・ステッツェルの作品。出だしはゆったりしたアンニュイな感じのブルース。覚えやすいメロディを持っている。まずソロはモートンのTbの後、ブレイクを活かしたアンサンブルがあり、Clソロとなる。そしてTp或いはCorのソロの後テーマの合奏で終わる。これも質の高い演奏だと思う。
もしSP盤で「ザ・スタンピード」とのカップリングでリリースされたとすればとても素敵なファン大満足のレコードであったろう。
| Piano & Band reader | … | フレッチャー・ヘンダーソン | Fletcher Henderson | ||||||
| Trumpet | … | ジョー・スミス | Joe Smith | 、 | ラッセル・スミス | Russell Smith | 、 | トミー・ラドニア | Tommy Ladnier |
| Trombone | … | ベニー・モートン | Benny Morton | ||||||
| Clarinet | … | バスター・ベイリ― | Buster Bailey | ||||||
| Clarinet ,Alto sax & Oboe , arranger | … | ドン・レッドマン | Don Redman | ||||||
| Clarinet & Tenor sax | … | コールマン・ホーキンス | Coleman Hawkins | ||||||
| Piano & Organ | … | ファッツ・ウォーラー | Fats Waller | ||||||
| Banjo | … | チャーリー・ディクソン | Charlie Dixon | ||||||
| Tuba | … | ジューン・コール | Jun Cole | ||||||
| Drums | … | カイザー・マーシャル | Kaiser Marshall |
| CD1-14. | ヘンダーソン・ストンプ | Henderson stomp |
| CD1-15. | ザ・チャント | The chant |
まず意外なのは、この日の2面分の録音には何とファッツ・ウォーラーが参加していることである。この時期のウォーラーがどのような存在であったのかは、これから学習していこう。因みにシュラー氏は、ウォーラーは店で平らげた12個のハンバーガーの代金が支払えずここでピアノを弾くことなったという面白いエピソードを紹介している。
さらにウォーラーに関して、CDでは“Henderson stomp”がオルガン、次曲“The chant”がピアノと記されているが、ディスコグラフィーでは逆で、“Henderson stomp”がピアノ、次曲“The chant”がオルガンと記されている。シュラー氏もこちらでPを弾いているのはウォーラーとしている。
どうもCDの記載に誤りがあるような気がする。というのもCD1-14ではどう聞いてもオルガンの音が聞こえないのである。
CD1-14.ヘンダーソン・ストンプ
アップ・テンポで楽し気な演奏である。さて、シュラー氏はこの録音を評して次のように書いている。
この録音は、このバンドが、ジャズの基本感覚を保持しながら凝った編曲を白人バンドと同じくらいに巧みに扱うことができたことを示している。これはテンポの速い曲で、演奏技巧の側面で、またオーケストレイションの点でも複雑であるにもかかわらず、力強いドライヴを込めて演奏された。レッドマンの編曲は、リードとブラスを区別しながらも関連するパターンにおいて統合する手法を習得するにつれて、一層磨きをかけられた。各セクションがあたかも同じ着想の二つの側面を表現するかのように響く。様々な楽器をリズミカルに動かす手法も習得されたために、アンサンブルの楽句もまた、7人のソロイストの演奏とほとんど同じように即興された響きを鳴らす。
ファッツ・ウォーラーのたくましいストライド・ピアノ、トミー・ラドニアの新版のニューオリンズ的Tp、ジューン・コールのTuによってこの演奏に格別な昂揚感がもたらされた。
CD1-15.ザ・チャント
この曲はメル・ステッツェルの書いた曲だが、ジェリー・ロール・モートンのレッド・ホット・ペッパーズも取り上げている。モートン、レッドマンという当時の二大鬼才アレンジャーがその手腕を競うことになった。モートンの録音は9月15日で、ディスコグラフィーに間違いとすればモートンが先んじ、CDの通りとすればヘンダーソン楽団が先んじたことになる。
シュラー氏は二つの演奏を比較して明確に分かることは、レッドマンは和声面で興味深いこの曲の扱い方が分かっていなかったことだと手厳しく批判している。
シュラー氏は、レッドマンの編曲においても穏やかながらも興味をそそる瞬間もあるとし、それはBjのソロがウォーラーが背景で弾くオルガンの音にかぶさる箇所を上げている。その理由として、このギミックな響きが現代の録音技師が登場するはるか前の段階で行われた事実であると書いているが、正直いまいちピンとこない。
僕の感想は、こちらのレッドマンの方がペンが入っている感じだが、いささか入り過ぎでソロが際立って聴こえるのはモートンの方だと思う。モートン盤はほぼ全員がソロを取るが全く混乱なく各自それぞれ素晴らしいソロを取っていることにもよるかもしれないが。
僕がこの項でもっとも残念なことは、やはり粟村先生のように「ザ・スタンピード」を感じられないことに尽きる。
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