1930年たった4面分しか録音を行わなかったフレッチャー・ヘンダーソンとその楽団は、1931年に入ると録音という面ではこれまでの低迷ぶりを吹き払うように一気に復活を遂げる。僕が持っている1931年の録音は、CD版の「スタディ・イン・フラストレイション」とRCA版の編集企画ものだけだがそれでも15面分に登る。しかしWeb版のディスコグラフィーを見る限りさらに数多い録音をこの年行っているのである。1929年10月に始まる不況が深刻化する中で意外な感じもするが、何はともあれ老舗バンドが元気を取り戻すのはうれしいことである。ということで1931年のヘンダーソン楽団の録音を録音順に聴いていこう。
| Band reader& Piano | … | フレッチャー・ヘンダーソン | Fletcher Henderson | |||
| Trumpet | … | ボビー・スターク | Bobby Stark | 、 | ラッセル・スミス | Russell Smith |
| Cornet | … | レックス・スチュワート | Rex Stewart | |||
| Trombone | … | ジミー・ハリソン | Jimmy Harrison | 、 | クロード・ジョーンズ | Claude Jones |
| Clarinet | … | バスター・ベイリ― | Buster Bailey | |||
| Alto sax | … | ハーヴェイ・ブーン | Harvey Boone | 、 | ベニー・カーター | Benny Carter |
| Tenor sax | … | コールマン・ホーキンス | Coleman Hawkins | |||
| Banjo | … | クラレンス・ホリディ | Clarence Holiday | |||
| Tuba | … | ジョン・カービー | John Kirby | |||
| Drums | … | ウォルター・ジョンソン | Walter Johnson |
| CD2-17. | スイート・アンド・ホット | Sweet and hot |
| CD2-18. | マイ・ギャル・サル | My gal Sal |
録音日についてCDの記載では1931年5月2日となっているが、Web版では1931年2月5日となっている。今回も僕には判断する材料がないが、このCDボックスは他はすべて年代順に収録してあるのだが、ここだけ順番が変わるのである。先に5月2日録音のCD2-17、18があり続いて3月19日録音のCD2-19〜22が収録されている。そこでもしCDの記載5月2日が2月5日の記載ミスとすれば全て録音順ということになる。
どちらも明るい曲調で軽快な演奏である。
CD2-17「スイート・アンド・ホット」
ヴォーカル入りだがこれはTbのジミー・ハリソンによるものだという。なかなかうまいものだ。たぶんヴォーカル前のTbソロもハリソンであろう。ヴォーカル後のホークのソロも短いながら聴き処となっている。ここでのホークのソロは後年の「うねるような、たゆたうような」スタイルの萌芽が見られる。
CD2-18「マイ・ギャル・サル」
アンサンブルの後先ずはTpソロが入るが、なかなか良い。再びアンサンブルの後Tb、Tpのソロが入り、アンサンブルの後ホークのTsソロとなる。ソロは短いがそれぞれの持ち味を発揮している。
前回1931年2月5日からの移動
Trombone … ジミー・ハリソン ⇒ ベニー・モートンBenny Morton
Alto sax … ベニー・カーター ⇒ ラッセル・プロコープRussell Procope
| CD2-19. | シュガー・フット・ストンプ | Sugarfoot stomp |
| CD2-20. | クラリネット・マーマレード | Clarinet marmalade |
| CD2-21. | ホット・アンド・アンキオウス | Hot and anxious |
| CD2-22. | カミン・アンド・ゴーイン | Comin’ and goin’ |
ガンサー・シュラー氏は、この1931年3月の録音に関して次のように詳しく解説している。
楽譜付きで次のように詳述する。
モートンは、4小節の唇を使ったトリルや見事な2小節の華麗な楽句(譜例12)で締めくくるのだが、ジョーンズの初期のような飛ぶようなソロを凌駕しようとしたことは疑いない。この後ホーキンスによる二つのコーラスが挿入され、この曲の録音はEのリフのパターンで終了する。但し4/4ではなく2/2である。
CD2-21.ホット・アンド・アンキオウス、CD2-22.カミン・アンド・ゴーイン
| Band reader& Piano | … | フレッチャー・ヘンダーソン | Fletcher Henderson | |||
| Trumpet | … | ボビー・スターク | Bobby Stark | 、 | ラッセル・スミス | Russell Smith |
| Cornet | … | レックス・スチュワート | Rex Stewart | |||
| Trombone | … | ベニー・モートン | Benny Morton | 、 | クロード・ジョーンズ | Claude Jones |
| Alto sax | … | ハーヴェイ・ブーン | Harvey Boone | |||
| Clarinet & Alto sax | … | ラッセル・プロコープ | Russell Procope | |||
| Tenor sax | … | コールマン・ホーキンス | Coleman Hawkins | |||
| Banjo | … | クラレンス・ホリディ | Clarence Holiday | |||
| Tuba | … | ジョン・カービー | John Kirby | |||
| Drums | … | ウォルター・ジョンソン | Walter Johnson | |||
| Vocal | … | ジョージ・バイアス | George Bias |
時折バンド名として「コニーズ・イン・オーケストラ」が使われている。「コニーズ・イン(Connie's inn)は当時ニューヨークのハーレムにあったナイト・クラブでヘンダーソンがよく出演していた。デュークの「コットン・クラブ・オーケストラ」のような名称であろう。
| record1A面4曲目 | シュガー・フット・ストンプ | Sugar foot stomp |
| record1A面5曲目 | ロール・オン・ミシシッピ | Roll on Mississippi |
| record1A面6曲目 | モーン・ユア・モーナーズ | Moan , you moaners |
| record1A面7曲目 | シンギン・ザ・ブルース | Singin' the blues |
こちらはRCAの「ザ・ビッグ・バンド・エラ」への収録となる。例によってこのボックスには不届きながらディスコグラフィーが付いておらず、上記の録音日及びパーソネルはWeb版ディスコグラフィーから拾ったものである。実はヘンダーソンはこの年「シュガー・フット・ストンプ」を4回も録音しているのだが、「ロール・オン・ミシシッピ」、「モーン・ユア・モーナーズ」、「シンギン・ザ・ブルース」と一緒に録音しているのは4月29日だけであり、ヴォーカリスト名が一致するので4月29日で間違いと思う。
こちらの「シュガー・フット・ストンプ」は前録音(3月19日)より少しテンポが速いようだが、構成は同じである。この曲にはヴォーカルは入っていない。
「ロール・オン・ミシシッピ」は、どこかで聴いたメロディーだが思い出せない。油井正一氏のボックスの解説によれば、この不景気の時代ホットな演奏は忌避されたので、各バンドとも白人男性のヴォーカリストを使い、表面スイートを装ったという。レックス・スチュアートが付けるミュートTpオブリガードが素晴らしいと書いている。
モーン・ユア・モーナーズは、トロンボーン・デュオやセクション・ワークが多くソロは点在するのみである。バイアスのヴォーカル入り。
「シンギン・ザ・ブルース」は、ビックス・バイダーべックのソロで有名なフランキー・トラウンバウアー楽団の吹込みだが、ヘンダーソンが惚れ込み取り上げたという。ビックスの名ソロをレックス・スチュワートに吹かせ自身はエディ・ラングのギターのオブリガードなどを弾いている。編曲はビル・チャリスに依頼したと言われている。
| 4月29日から変わったパーソネル | ||||
| Alto sax… | ハーヴェイ・ブーン | ⇒ | エドガー・サンプソン | Edger Sampson |
| Vocal… | ジョージ・バイアス | ⇒ | ディック・ロバートソン | Dick Robertson |
| record1A面8曲目 | オー・イット・ルックス・ライク・レイン | Oh! It looks like rain | 7月17日 |
| record1A面9曲目 | スイート・ミュージック | Sweet music | 7月17日 |
| record1B面1曲目 | マイ・スイート・トゥース | My sweet tooth | 7月30日 |
| record1B面1曲目 | マリンダズ・ウェディング・デイ | Malinda’s wedding day | 7月30日 |
この録音で歌手がジョージ・バイアスからディック・ロバートソンに変わる。ディック・ロバートソンはレッド・ニコルスのファイヴ・ぺニーズやデューク・エリントンのバンドでも歌っていた歌手。
またヴァイオリンの音が入っているが奏者はエドガー・サンプソン。クラリネット、アルト・サックス、ヴァイオリンと大忙しである。
「オー・イット・ルックス・ライク・レイン」はアップ・テンポの明るい感じの曲で、ロバートソンの歌入り。ソロはまずホークが取る。続いてサンプソンのヴァイオリンが続きその後はミュート・コルネット、ピアノなどが矢継ぎ早に出てくる。
「スイート・ミュージック」はまずロバートソンのヴォーカルが入り、アンサンブル、サンプソン(Vln)、ホーク(Ts)とソロが続き、再びアンサンブル、ヴォーカルとなって終わる。解説の油井正一氏によれば、ドラムスのウォルター・ジョンソンは史上初めてハイハット・シンバルを用いたドラーだそうである。
「マイ・スイート・トゥース」この曲も弾むように明るい曲である。ロバートソンの歌入りで、オブリガードをサンプソンのヴァイオリンがつけている。ソロはサンプソン(Vln)、プロコープ(As)、スターク(Tp)。
「マリンダズ・ウェディング・デイ」スチュアートのミュート・コルネットがリードするアンサンブルからヴォーカルが入り、プロコープ(As)、ホーク(Ts)とソロが入り、アンサンブルそしてエンディングとなる。
7月17、30日から変わったパーソネル
Trombone … ベニー・モートンandクロード・ジョーンズ ⇒ J.C.ヒギンボッサムJ.C.Higginbotham and サンディー・ウィリアムスSandy Williams
Vocal … ディック・ロバートソン ⇒ レス・ライスLes Reis
| CD2-23. | シンギン・ザ・ブルース | Singin’the blues |
| CD2-24. | シュガー | Sugar |
「シンギン・ザ・ブルース」はヴォーカル入りでビックス・バイダーべックに範を取ったRCAの「RCAジャズ栄光の遺産シリーズ ザ・ビッグ・バンド・エラ 第1集」record1A面7曲目と同じ曲とは思えないが、作曲者を見ると同じである。同一曲なのだろうが、同一曲とは思えないのだが…。
シュガーアンサンブルからTbだけをバックにVlnのソロ、Tpソロが入り、アンサンブル、ヴォーカルと続き、ミュートTpソロとなり、再びアンサンブルとなって終わる。