前年1928年はグレン・ミラーにとって激動の年であった。詳しい月日が分からないので順序が分からないが、トロンボーンのジャズ教則本の出版やヘレン・バーガーとの結婚の他に在団していたベン・ポラックのバンドにトロンボーンの天才・プレイヤー、ジャック・ティーガーデンが入団しミラーのソロ・スペースが削られるということもあった。現に1928年ニュー・ヨークのパーク・セントラル・ホテルに出演中のポラック楽団の写真にはミラーは写っておらず、トロンボーンを吹いているのはジャック・ティーガーデンである。さらに10月15日ニュー・ヨークで行われたポラックのバンドの吹込みのパーソネルを見ると、トロンボーンはミラーではなく、ジャック・ティーガーデン一人がクレジットされている。
ところが1929年1月のレコーディング・データを見ると、トロンボーンはミラーであり、ティーガーデンは参加していない。この辺りの事情はどうなっているのであろうか?ミラーは偶々1928年10月の吹込みには参加できなかっただけで、ポラック楽団におけるNo.1トロンボニストの座を明け渡したわけではなかったのかもしれない。
| Vocal & Band leader | … | ベン・ポラック | Ben Pollack |
| Cornet | … | ジミー・マクパートランド | Jimmy McPartland |
| Trombone | … | グレン・ミラー | Glenn Miller |
| Clarinet | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman |
| Piano | … | ヴィック・ブリーディス | Vic Briedis |
| Banjo | … | ディック・モーガン | Dick Morgan |
| Bass | … | ハリー・グッドマン | Harry Goodman |
| Drums | … | レイ・ボデューク | Ray Bauduc |
| CD-6. | ワン・ワン・ブルース | Wang-wang blues |
| CD-7. | イエロウ・ドッグ・ブルース | Yellow dog blues |
| CD-8. | シャツ・テイル・ストンプ | Shirt tail stomp |
これはベン・ポラック楽団のピックアップ・メンバーによるコンボ演奏。”Ben's bad boys”という名義だが、1928年6月録音の”Benny Goodman's Boys”とほぼ同じメンバーである。ここにポラックのジャズへの意欲が見えると言われるが、こういうメンバーでの録音名義はBGの方が先である。後にBGもビッグ・バンドを率いた中にコンボ演奏を交えたりするがその原点はここからかもしれない。ということはビッグ・バンドの大きな流れの一つの原点と言えるかも。
CD-6.ワン・ワン・ブルース
ポール・ホワイトマン楽団のトロンボーン奏者で、30年代の初め日本に滞在していたバスター・ジョンソンが作曲し、ポール・ホワイトマン楽団のレコードがヒットした曲という。形式はポップス型でブルースではない。BGがキッチリと1コーラス(32小節)のソロを決める。
CD-7.イエロゥ・ドッグ・ブルース
ブルースの父W.C.ハンディの名作。ここではベースのハリーがベースではなくチューバを、ドラムを御大のポラックではなくレイ・ボデュークが叩いている。ニュー・オリンズ風の演奏で、BGのソロには尊敬するジミー・ヌーンのフレーズが出てくる。続くマクパートランドのソロが良い。どちらかと言えば「コミック・ソング」であろう。
CD-8.シャツ・テイル・ストンプ
1928年6月4日に「ベニー・グッドマンズ・ボーイズ」名義で吹き込んでいるナンバーの再演。ソロはBGのクラリネット(もちろんテッド・ルイス風に吹いているという)、マクパートランドのコルネット、ギター或いはバンジョー・ソロ、クラリネットとコルネットの掛け合いとなる。
CD解説の野口久光氏は、「ディキシー風のノヴェルティな演奏で、作者のベン・グッドマンはBGのペン・ネイムかもしれない。というのはBG自身がリーダーとして吹き込んでいるからである。これもベンズ・バッド・ボーイズと名乗るセプテット演奏で、BGはテッド・ルイス奏法(こういう奏法があるんだなぁ)の影響を見せ、ユーモラスなお遊びが楽しい」と書いている。氏には申し訳ないが意味が分からない。
| Trumpet & Band leader | … | レッド・ニコルス | Red Nichols | |||||||||
| Trumpet | … | レオ・マッコンヴィル | Leo McConville | 、 | マニー・クライン | Manny Klein | ||||||
| Trombone | … | ジャック・ティーガーデン | Jack Teagarden | 、 | グレン・ミラー | Glenn Miller | 、 | ビル・トロン | Bill Trone | 或いは | ハーブ・テイラー | Herb Taylor |
| Clarinet , Alto & Baritone sax | … | ベニー・グッドマン | Benny Goodman | |||||||||
| Alto sax | … | 不明 | Unknown | |||||||||
| Tenor sax | … | ベイブ・ラッシン | Babe Russin | |||||||||
| Piano | … | アーサー・シャット | Arthur Schutt | |||||||||
| Guitar | … | カール・クレス | Carl Kress | |||||||||
| Bass | … | アーティー・ミラー | Artie Miller | |||||||||
| Drums | … | ジーン・クルーパ | Gene Krupa |
Webにはミラーは1930年レッド・ニコルスのバンドのメンバーであったと出ているが、すでに1929年から録音には参加していることになる。
シカゴアンズの一人ジーン・クルーパも1928年の暮れにレッド・マッケンジ―とともにニューヨークに登った。そのまま居続けたのかどうかは不明。ともかくBG、ティーガーデン、ミラー、クルーパを従えた録音は豪華と思うのは現代人の感覚で、当時としてはまだまだ売り出し中の若者だった。
| A-4、B-1. | インディアナ | Indiana |
| A-5. | ダイナ | Dinah |
A-4、AH-B-2.インディアナ
解説の大和明氏によると、編曲はグレン・ミラーでスッキリとまとめ上げられており、ファイヴ・ぺニーズの代表曲となったという。ソロはBG⇒ニコルス⇒ティーガーデンと続く豪華リレーである。若さと真剣さに溢れるBGと既に完成の域にあるティーガーデンのソロが対照的であるとする。ともかくBG、ティーガーデンのソロは聴き応えがある。ここにミラー=アレンジャー、ティーガーデン=ソロイストという位置づけが明確化されている。
A-5.ダイナ
何年か前この録音を初めて聴いた時、これはディック・ミネのヒット曲ではなかったか。「ダイナ、私のこいびーと〜」というメロディははっきり覚えている。僕の父親がディック・ミネのファンだったので何度かテレビで聴いたことがあった。
大和氏は、悠揚迫らざるティーガーデンのソロに始まり、ラッシン、BGとソロが続くが、このBGのソロが軽快で躍動感に満ちているという。僕はやはりティーガーデンがすでに貫禄溢れるプレイぶりが素晴らしいと思う。4ビートの頭にビートを置くという珍しいリズムである。
| Trumpet & Band leader | … | レッド・ニコルス | Red Nichols | ||||||
| Trumpet | … | レオ・マッコンヴィル | Leo McConville | 、 | マニー・クライン | Mannie Klein | |||
| Trombone | … | ジャック・ティーガーデン | Jack Teagarden | 、 | グレン・ミラー | Glenn Miller | 、 | 不明 | Unknown |
| Clarinet | … | ピー・ウィー・ラッセル | Pee Wee Russell | ||||||
| Tenor sax | … | バド・フリーマン | Bud Freeman | ||||||
| Piano | … | ジョー・サリヴァン | Joe Sullivan | ||||||
| Banjo | … | トミー・フェライン | Tommy Feline | ||||||
| Bass | … | アーティー・ミラー | Artie Miller | ||||||
| Drums | … | デイヴ・タフ | Dave Tough |
AH-B面2曲目.ワシントン広場のバラ(Rose of Washington square)
サウンド的にはディキシーランドとスイングのちょうど中間のような気がする。ディキシー臭くしているのは、チャンチャカチャンチャカと奏でられるバンジョーだと思う。Tb〜Cl〜Ts〜Pと受け継がれるソロは、聴き応え十分で確かに腕達者を集めたセッションであることが分かる。
BGも証言しているように、レッド・ニコルスに呼ばれれば断れなかった。断るということは次のチャンスの芽を摘んでしまうということになってしまうからであろう。そんな事情も反映してこの時代、ニコルスのファイヴ・ぺニーズは当代一流のバンドの座を維持したのであろう。そしてこの1929年の録音を聴くとかなり完成度は高くなっていると感じる。やはり起用したメンバーが”当たり”であったのだろうか。