ライオネル・ハンプトン 1936年

Lionel Hampton 1936

1931年ルイ・アームストロングとの録音以来久しぶりの登場である。ハンプトンは、レス・ハイト楽団でドラムを叩いていたが、1930年ルイ・アームストロングがロスにやって来てその楽団を指揮することになる。 その時ハンプトンは本職のドラムとヴァイブラフォンで録音に参加している。1930年と31年のことである。ヴァイブラフォンは、ハンプトンが後に結婚するドレスメーカーとして成功していたグラディスが買ってくれたという(右写真はグラディスとライオネル)。それをハンプトンは演奏し始めたのだが、バンド・リーダーのハイトは全く気に入らず、ドラムだけを演奏しろと言ったという。それでハンプトンはハイトの楽団を辞め小さなバンドを作って「パラダイス・クラブ」で演奏し始めたという。そしてそのバンドではTbのタイリー・グレンがハンプトンがヴァイブを叩くときにはドラムを叩いたという。後にハンプのバンドにはAsとアレンジのドン・バイアス、ハーシャル・エヴァンスとテディ・バクナーも加入した。とてもスイングするバンドだったという、それはそうだろう。
「パラダイス・クラブ」はロスきってのジャズのメッカで、そこにはハリウッド在住のジャズ・ファンや、ロング・ビーチから来た船乗りたち、それに各地からやってくるミュージシャンたちのホット・ポイントでもあったという。ピー・ウィーとシャーツアーは「パロマ―」の仕事を終えたある夜遅くこの「パラダイス・クラブ」へ行ってみた。マッキーチャーンもこのスポットを見つけ、ベニー・グッドマンやクルーパ、ウィルソンにもこのエキサイティングなジャズ・スポットを紹介した。そこでヴァイブを叩くハンプトンに興味を持ったBGが、1936年8月21日の録音に彼を呼び、1曲だけレコーディングを行っている。多分BGはテストのつもりでハンプトンを呼んだのだろう。その結果が良かったので8月26日に改めて正式にレコーディングを行うことになったと推測される。
因みに映画「ベニー・グッドマン物語」では、「パラダイス・カフェ」は港に面する小さな食堂で、そこでハンプトンはウエイター、コックなどをこなし、ショウ・タイムとしてヴァイブを叩く。すると興が乗ったBG、ウィルソン、クルーパもそれに応じ、即興ジャムセッションが始まるという設定になっている。もちろんこれは大ウソで、そもそも「パラダイス・クラブ」は400人も収容できる大きな店だったという。しかし展開は似ている。ハンプトン自身次のように語っているのである。「ある晩私が演奏中クラリネットの音がしたので、辺りを見回すとBGがそこでプレイしているじゃないか。そして今夜のタイリーのドラムは馬鹿にいいね、と思ったらジーン・クルーパが叩いているじゃないか。ハンプトンのバンドのピアニスト、ラルーがカウンター・メロディを送ってきた。よく見ればそれはテディ・ウィルソンではないか!私たちは2時間ぶっ通しでジャムったよ!」と。しかし映画のこの部分が面白いのは、主役のベニー以外は全員本物だということである。
そして今度はベニーがハンプトンを誘った。「今度はこちらにジャムりに来ないか。」そうして8月21日オーケストラの録音が済んだ後で、”ムーングロウ”を演ったという。
映画の演出では、たまたまBGとハンプは知り合ったことになっているし、CDボックスの解説でも現地に行ってハンプを知ったことになっているが、果たして本当にそうだったのだろうか?ハンプはルイ・アームストロングと5年前に共演を果たし、そのレコードは発売されていたはずである。この時代ジャズ界最大のスターはルイであったことを考えれば、BG達がハンプを知らなかったとは思えない。自分のバンドに加えるかどうかは分からないとして、ルイのレコードでヴァイブラフォンというまだジャズ界ではあまり使われていない楽器を使いこなすプレイヤーに興味があったはずである。それで聴きに行ったのではないかと思うのだが実際はどうだったのだろう。

<Date&Place> … 1936年8月21日 ハリウッドにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマン・カルテット(Benny Goodman Quartet)

Clarinet & Band Leaderベニー・グッドマンBenny Goodman
Vibraphoneライオネル・ハンプトンLionel Hampton
Pianoテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Drumsジーン・クルーパGene Krupa
この日はオーケストラによる録音が3曲行われた。多分予定は4曲だったのだろうが、急遽ハンプトンを加えたカルテットの録音を行うことになったのだと思われる。

<Contents> …「コンプリート・ベニー・グッドマン」(BMG BVCJ-7030)

CD4-9.[ムーングロウ]
曲はジャック・ティーガーデン、デューク・エリントンらも吹き込んでいる当時のヒット・ナンバー。ヴァイブラフォン特有の金属的なサステインの聴いた音がクールで洒脱な雰囲気を盛り上げている。ハンプのVbソロをフューチャーしている。野口久光氏は、元々ハンプが得意としていたナンバーだという。

<Date&Place> … 1936年8月24日 ハリウッドにて録音

<Personnel> … テディ・ウィルソン・アンド・ヒズ・オーケストラ(Teddy Wilson and his orchestra)

Piano & Band Leaderテディ・ウィルソンTeddy Wilson
Trumpetクリス・グリフィンChris Griffin
Clarinetベニー・グッドマンBenny Goodman
Tenor saxヴィド・ムッソVido Musso
Vibraphoneライオネル・ハンプトン
Guitarアラン・リュースAllan Reuss
Bassハリー・グッドマンHarry Goodman
Drumsジーン・クルーパGene Krupa

<Contents> …「新たなる宝庫・黄金時代のベニー・グッドマン」(Nostalgia records CSM 890-891)&「ザ・テディ・ウィルソン」(CBS SONP 50332-3)

「宝庫}record2.A面7.ユー・ケイム・トゥ・マイ・レスキューYou came to my rescue
「テディ」record1.B面4.愛は君の瞳Here's love in your eyes
8月21日と8月26日の間、8月24日グッドマンはテディ・ウィルソンのブランズウィック・セッションに加わった。同日録音は4曲行われたが、そのうち2曲にグッドマンとウォードが参加している。その2曲が「新たなる宝庫・黄金時代のベニー・グッドマン」と「ザ・テディ・ウィルソン」に1曲ずつ収録されている。他の2曲にはグッドマンは参加しておらず、レッド・ハーパー(Red Harper)という歌手が参加している。飯塚経世氏によれば、ヴィクターと専属契約していたBGは「ジョン・ジャクソン」、ウォードが「ヴェラ・レイン」の変名でレコードは出たという。録音にハンプトンも参加しているが急きょ決まったのであろう。
[ユー・ケイム・トゥ・マイ・レスキュー]
メディアム・スロウのナンバー。イントロの後P、続いてVib、Tsの短いソロがあり、ウォードのヴォーカルとなる。オブリガードを付けるのはBGである。ヴォーカルの後ニュー・オリンズ風の集団即興となって終わる。
[愛は君の瞳]
Tpのリードする合奏の後短いウィルソンのPソロ続いてウォードのヴォーカルとなる。その後ムッソのTs、ハンプトンのVb、グッドマンのCl、再びウィルソンのPからニュー・オリンズ風の集団即興となる。

<Date&Place> … 1936年8月26日 ハリウッドにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマン・カルテット(Benny Goodman Quartet)

8月21日と同じ。

<Contents> …「コンプリート・ベニー・グッドマン」(BMG BVCJ-7030)

CD4-10.ダイナDinah
CD4-11.イグザクトリー・ライク・ユーExactly like you
CD4-12.ヴァイブラフォン・ブルースVibraphone blues
CD4-10.[ダイナ]
日本ではディック・ミネが歌ったナンバー。少しテンポを上げてここでもソロはBGとハンプが中心。
CD4-11.[イグザクトリー・ライク・ユー]
ハンプのヴォーカル入り。この小粋なヴォーカルが聴きものとは野口氏。BGのソロのバックでブギー調のピアノを聴かせるテディのプレイが面白い。
CD4-12.[ヴァイブラフォン・ブルース]
タイトル通りハンプをフューチャーしたブルース・ナンバー。ゆったりとしたブルースでBG、ウィルソンのブルース・プレイが堪能できる。これもハンプのヴォーカル入りで、オブリガードはBGが付ける。
8月26日のカルテット録音は今回のハリウッド巡業での最後の録音となった。

さて、8月にカルテット録音に参加したライオネル・ハンプトンは、その後自身のバンド共にロスアンゼルスに留まっていた。しかしBGは毎日のようにニューヨークからハンプのところへ電話かけてきた。ハンプは次のように回想する。「BGから電話だよと言われると誰かが自分をからかっているんだと思って、半分も電話に出なかった。」結局BGはハンプの妻グラディスを掴まえて、”キャメル・キャラヴァン”で一緒にやりたいので、ニューヨークに来て欲しいと彼女に告げた。ハンプは言う。「私は、本来ドラマーだし、ドラムを演奏したかった。ヴァイブじゃない。」BGは言った。「いいから来いよ。後でドラムをやらせるからさ。」ともあれハンプはニューヨークに向かった。
カルテットが組まれて録音ができるようになると、BGは一刻も無駄にしなかった。早速11月18日には録音に入るのである。

<Date&Place> … 1936年11月18日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマン・カルテット(Benny Goodman Quartet)

8月26日と同じ

<Contents> …「コンプリート・ベニー・グッドマン」(BMG BVCJ-7030)

CD5-5.スイート・スーSweet Sue
CD5-6.マイ・メランコリー・ベイビーMy Melancholy baby
CD5-5.[スイート・スー]
ソロを取るのは御大のBGとテディそしてハンプトン。せっかく呼んだのだからという気遣いか。
CD5-6.[マイ・メランコリー・ベイビー]
現在でも歌われたり演奏されたりするスタンダード・ナンバー。ソロはBG、ウィルソン、ハンプと続く。

<Date&Place> … 1936年12月2日 ニューヨークにて録音

<Personnel> … ベニー・グッドマン・カルテット(Benny Goodman Quartet)

8月26日と同じ

<Contents> …「コンプリート・ベニー・グッドマン」(BMG BVCJ-7030)

CD5-7.タイガー・ラグTiger rag
CD5-8.サヴォイでストンプ テイク1Stompin' at the Savoy take1
CD5-9.サヴォイでストンプ テイク2Stompin’at the Savoy take2
CD5-10.ウィスパリングWhispering
CD5-7.[タイガー・ラグ]
ハンプを除いたトリオで演奏される。O.D.J.B.の時代からビックス等に愛奏されたナンバー。クルーパのドラムがフューチャーされる。
CD5-8、9.[サヴォイでストンプ]
オーケストラでも録音されており、2ヴァージョンを録音するとはよほどBGのお気に入りのナンバーだったのだろう。
CD5-10.[ウィスパリング]
ハンプはソロは取るが、BG、ウィルソンのバックではほとんど叩いていない(後半のBGソロのバックでは叩いている)。

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