油井正一氏は、サッチモのキャリアを4期に分けて分析しています。この1933年を含む第3期(1931〜1935年)は「サッチモの最悪の時期」に分類されているのです。氏は次のように述べています。「人気はますます上がり、最高音を発するトランペットとして担ぎ上げられたのが、彼の不運だったのではないでしょうか。心無いファンのテクニック尊重癖が、彼を脱線させたのだと思います」と。
1931年シカゴでの吹込みのためにサッチモは、ジルナー・ランドルフとリューベン・“マイク”・マッケンドリックにより率いられていたビッグ・バンドを雇った。そのバンドはずっとルイのレギュラー伴奏バンドとしての役割を果たし、翌32年3月に解散したという。
そして1933年の録音では、ジルナー・ランドルフとリューベン・“マイク”・マッケンドリックが残り、他は一新されたメンバーでの録音となっている。その中で注目はピアノのテディ・ウィルソンでこれがレコード・デビューと思われる。テディのディスコグラフィーを見てもこれ以前の録音はないので間違いないであろう。テディは、アール・ハインズの影響を強く受けてそのキャリアをスタートさせたというが、そのハインズとかつて名コラボを行ったルイには、極めて好ましいピアニストと映ったのかもしれない。
| Trumpet , vocal , speech & conduct | … | ルイ・アームストロング | Louis Armstrong | |||
| Trumpet | … | エリス・ホィットロック | Ellis Whitlock | 、 | ジルナー・ランドルフ | Zilner Randolph |
| Trombone | … | ケグ・ジョンソン | Keg Johnson | |||
| Clarinet & Alto sax | … | スコヴィル・ブラウン | Scoville Brown | 、 | ジョージ・オールダム | George Oldham |
| Clarinet & Tenor sax | … | アルバート・バッド・ジョンソン | Albert“Budd”Johnson | |||
| Piano | … | テディ・ウィルソン | Teddy Wilson | |||
| Banjo & Guitar | … | マイク・マッケンドリック | Mike McKendrick | |||
| Tuba & String Bass | … | ビル・オールダム | Bill Oldham | |||
| Drums | … | ヤンク・ポーター | Yank Porter |
| CD-2. | 想いのまま | I’ve got the world on a string | 1月26日 |
| CD-3. | ブルースを歌おう | I Gotta right to sing the blues | 1月26日 |
| CD-4. | ハッスリン・アンド・バーストリン・フォー・ベイビー | Hustlin’and bustlin’ for baby | 1月26日 |
| CD-5. | シッティン・イン・ザ・ダーク | Sittin’in the dark | 1月26日 |
| CD-6. | ハイ・ソサイエティ | High society | 1月26日 |
| CD-7. | ヒーズ・ア・サン・オブ・ザ・サウス | He’s a son of the south | 1月26日 |
| CD-8. | サム・スイート・ディ | Some sweet day | 1月27日 |
| CD-9. | ベイジン・ストリート・ブルース | Basin street blues | 1月27日 |
| CD-10. | ハニー・ドゥ! | Honey , do ! | 1月27日 |
| CD-11. | スノウボール | Snowball | 1月28日 |
| CD-12. | マホガニー・ホール・ストンプ | Mahogany hall stomp | 1月28日 |
| CD-13. | スイング・ユー・キャッツ | Swing you cats | 1月28日 |
まずこの年、不況がどん底に落ち込んだと言われるこの時期ルイの録音は大変多い。レコード会社も売れるアーティストにレコーディングを絞ったのかもしれない。
CD-2.[想いのまま]&CD-3.[ブルースを歌おう]の2曲は、ハロルド・アーレン作曲テッド・ケーラー作詞で、前者はコットン・クラブのショウ「コットン・クラブ・パレード」のために1932年に書かれた、後者は1932年のブロードウェイ・ショウのために書かれた曲というので、最新のヒット曲に取り組んだヒット狙いということであろう。ピアノにテディ・ウィルソンが加わったが残念ながらこれといったソロもなくまだ新人扱いだったのであろう。
CD-4.[ハッスリン・アンド・バーストリン・フォー・ベイビー]は、ヴォーカルが終わったTpソロからエンディングに向かうという当時サッチモの定番の構成であろう。油井氏はシンセリティ(sincerity:誠意)が失われているというが、何といっても彼の吹くTpは素晴らしくそれだけでも価値があったのだと思う。
CD-5.[シッティン・イン・ザ・ダーク]で聴かれるエンディングでのカデンツアはルイの自由な発想によるユニークでユーモア溢れる素晴らしいものだ。
CD-6.[ハイ・ソサイエティ]は、ヴォーカルをイントロの語りだけにしTpプレイに集中しているような力演で、ディキシーでよく演奏される定番ナンバーを聴き処多いものにしている。
CD-7.[ヒーズ・ア・サン・オブ・ザ・サウス]は、アンサンブルも見事だが、カデンツァのサッチモのTpプレイが聴き処なのであろう。。
CD-8.[サム・スイート・ディ]ここではしばらくぶりに最初はミュートでプレイする。ヴォーカルの後Tbソロ、再びヴォーカル続くジョンソンのTsソロがいい味わいだ。
CD-9.[ベイジン・ストリート・ブルース]は、かなり崩した演奏で、ルイは終止ヴォーカルをスキャットで歌っている。
CD-11.[スノウボール]では、サッチモは語りのようなヴォーカルで、ジョンソンのTs、ジョンソンのTbソロも聴かれるが何といっても中心はルイで、さすがの存在感を示す。
CD-12.[マホガニー・ホール・ストンプ]は、一連の録音で唯一のインストの曲で短いながらメンバーのソロが挿入される。油井氏はこの時期数少ない聴くに堪える曲としている演奏。
何といっても全てのナンバーでルイのトランペットが冴え渡っていて、それだけでもこれらの作品が聴くに値するものにしている。
Piano … テディ・ウィルソン ⇒ チャーリー・ビール(Charlie Beal)
Drums … ヤンク・ポーター ⇒ シドニー・カトレット(Sidney Catlett)
| CD-14. | ハニー、ドンチュー・ラヴ・ミー・エニモア | Honey , don't you love me anymore |
| CD-15. | ミシシッピ・ベイジン | Mississippi Basin |
| CD-16. | ラフィン・ルー | Laughin’Louie |
| CD-17. | トモロウ・ナイト | Tomorrow night |
| CD-18. | ダスキー・スティーヴドア | Dusky Stevedore |
この時代のルイのレコードの典型的なスタイル、アンサンブル=ルイのヴォーカル=ルイのTpソロそして派手なカデンツアが展開される。その中で異色なのは、CD-16.「ラフィン・ルー」で、ほとんどルイの語りと周囲の掛け合い、そしてルイのTpだけで構成される。ルイ以外ではやはりTsのソロが群を抜いており、これはバド・ジョンソンが吹いているのであろう。
Drums … シドニー・カトレット Sidney Catlett ⇒ ハリー・ダイアル(Harry Dial)
Vocal(CD-21のみ) … アルバート・ジョンソン Albert Johnson
| CD-19. | ゼアズ・ア・キャビン・イン・ザ・パインズ | There’s acabi in the pines |
| CD-20. | マイティー・リヴァー | Mighty river |
| CD-21. | スイート・スー・ジャスト・ユー | Sweet Soue , just you |
| CD-22. | アイ・ワンダー・フー | I wonder who |
| CD-23. | セントルイス・ブルース | St.Louis blues |
| CD-24. | ドント・プレイ・ミー・チープ | Don't play me cheap |
前録音の2日後の録音だが、ドラムが名手シドニー・カトレットがハリー・ダイアルに代わっている。但しドラムの音は良く聴こえずプレイ自体に対する印象はない。
さらに、CD-21.スイート・スー・ジャスト・ユーが不思議なナンバーで、ルイの語りの後カウントで演奏が始まりルイが歌うところまでは普通だが、途中からアルバート・ジョンソンなる歌手(『ジャズ人名辞典』未収録)のスキャットが中心となり、ルイはオブリガードを付けるようにスキャットで応じる。その後にルイのTpソロとなるのだが、このアルバート・ジョンソンを加えた意味合いなどよく分からない。
その他は2日前と同様にこの時代のルイの典型的なスタイルによる展開。ルイの他はバド・ジョンソンのTsが聴き応えがあるのも同じである。その他はアンサンブルなどしっかりアレンジされておりスイング時代到来といった感じだが、マイク・マッケンドリックのバンジョーの音が時代を逆行するようで痛い。これはそういう狙いなのだろうか?
この年これだけ録音があるということは、当時のルイの人気の証であろう。ルイのプレイを聴く限り、その輝かしさは燦然と輝いている。