僕の持っているベリガン率いるオーケストラの最後の録音は、1939年11月28日に行われたものだった。詳しい日付などは分からないが、ベリガンのバンドは経営がうまくいかず1939年の末にベリガンは破産宣告を受けたという。極度の飲酒癖がもたらした災難であろう。そこで彼は古巣であるトミー・ドーシーの楽団に戻るのである。
Band leader & Trombone | … | トミー・ドーシー | Tommy Dorsey | |||||||||
Trumpet | … | バニー・ベリガン | Bunny Berigan | 、 | ジミー・ブレイク | Jimmy Blake | 、 | レイ・リン | Ray Linn | 、 | ジョン・ディラード | John Dillard |
Trombone | … | レス・ジェンキンス | Les Jenkins | 、 | ジョージ・アルス | George Arus | 、 | ロウエル・マーティン | Lowell Martin | |||
Reeds | … | ジョニー・ミンス | Johnny Mince | 、 | フレッド・スタルス | Fred Stulce | 、 | ハイミー・シャーツァー | Hymie Schertzer | 、 | ポール・メイソン | Paul Mason |
Piano | … | ジョー・ブシュキン | Joe Bushkin | |||||||||
Guitar | … | クラーク・ヨーカム | Clark Yocum | |||||||||
Bass | … | シド・ワイス | Sid Weiss | |||||||||
Drums | … | バディ・リッチ | Buddy Rich | |||||||||
Vocal | … | コニー・ヘインズ | Connie Haines |
Trumpet … ジョン・ディラード ⇒ レオン・デブロウ(Leon Debrow)
Reeds … ドン・ロディス(Don Lodice) ⇒ In
Vocal … フランク・シナトラ(Frank Sinatra) ⇒ In
Chorus … ザ・パイド・パイパース(The pied pipers) ⇒ In
因みにザ・パイド・パイパースのメンバーは、ジョー・スタッフォード(Jo Stafford)、ビリー・ウィルソン(Billy Wilson)、チャック・ロウリー(Chuck Lowry)、ジョン・ハドルストン(John Huddleston)という女性1名男性3名というメンバー構成である。
Trumpet … レオン・デブロウ ⇒ クライド・ハーレイ(Clyde Hurley)
前6月27日から変更なし。
ここでドーシー楽団にとっては一大事件が発生する。ベリガンが8月20日NBCのラジオ放送中にソロを取ろうとして倒れてしまうのである。そもそも「偉大なる」と形容詞が付けられるベリガンは、古巣ドーシー楽団に戻ってから、吹込みにおいてはほとんどソロを取っていなかった。ベリガンは酒におぼれアルコール中毒症状も出始め、バンド・マネージャーのボビー・バーンズを悩ませていた。そしてついにこの日ドーシー楽団から去らざるを得なくなるのである。結局ベリガンは古巣ドーシー楽団で数か月しか保たなかったのである。
そして後釜にはベニー・グッドマンの楽団で名を上げた、これも偉大なトランぺッター、ジギー・エルマンをスカウトする。エルマンはBGの腰の手術で休暇を取っている間チャーリー・クリスチャンと共に二人だけ給料をもらうという特別待遇を受けていたが、演奏をしない日々が続くことに耐えられなくなったのかもしれない。またドーシー楽団のベリガンの後という栄誉とそれに見合う報酬もあったのであろう。ともかくこの電光石火のバンド運営は見事である。そのエルマンが加わっての最初の録音が8月29日に行われる。
ベリガンはその後何とか復帰し、一時的に新しい小規模グループを率い、ツアーを行うべくビッグ・バンドを再編成した。1940年の秋から1942年の初めにかけてバンドを率い、それなりに成功を収めたというが、健康状態はどんどん悪化していった。そしてツアー中の1942年4月20日、ベリガンは肺炎のためペンシルベニア州ピッツバーグのアレゲニー総合病院に5月8日まで入院した。医師からは肝硬変が極度に進行していることから、飲酒をやめしばらくトランペットの演奏を辞めるよう勧告された。しかしベリガンはそれを受け入れずバンドに戻り、ツアーを行う。そしてニューヨークの自宅に戻るまで数週間演奏したが、1942年5月31日に大出血を起こし、6月2日ついに帰らぬ人となった。33歳という若さであった。僕はこのドーシーの楽団に復帰した以後のレコードを持っていないので、この不世出のトランぺッターを取り上げるのはこれが最後になる。